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第十四話 スマスク中毒



 腕が筋肉痛になった。まだ練習は二日目が始まったばかりだというのに、給水の時間もほとんどない。BB弾でこれだけきついんだから、もっと重い銃は僕には向いていなさそうだ。

 ——いっそ、至近距離で撃てる環境だったらいいのに。

「……あ!」

「薫? どうしたんだ?」

「キバシリ君? 何かあった?」

 ウトウとアマモが同時に聞いてきた。両方答える必要もない気がしたので、ウトウを見て答える。

「至近距離で撃てる状況を作り上げたらいいんじゃ……」

「あー……。言いそうな気がした」

 ウトウに頭をぽりぽり掻きながらそう言われると、少しむっとする。

「その作戦はいいと思うけど、もし失敗したらどうするかな?」

「うう……」

 ぐうの音も出ない。確かにそうだけど、でも僕は上手くなる気がしなかった。

「…………まあ、じゃあこうしよう。ヤイロもオオルリもだいぶ慣れてきたみたいだし、二人はカナリアのチームに混ざっておいで。……キバシリ、君は勇気がある子だから、特別に訓練をさせてあげよう」

「なんだなんだぁ?」

 ウトウに腕を引かれて、少し陸の方へ上がった。そこにあったのは、この数日で見慣れてきた瓦礫と廃墟だ。しかし、この辺りは少し空気が違う。

 元はガラス張りだったのであろう、二階まで吹き抜けのあった建物に到着した。ウトウは躊躇することなく中へ入った。中も外と同じように惨状が広がっている。思っていたより広く、商業施設だったようで、奥の方にぼろぼろになって転がったマネキンなどが見えた。

 中を見回ろうとする僕をウトウが止めて、声を潜めた。

「キバシリ、静かに歩くんだ。……ここは昔、この神戸でも人気でおしゃれなデザインの商業施設だった。…………でも今は、野生動物の棲み家だ」

 ここにいる動物を、今から仕留めてもらおう、ととんでもないことをウトウは言った。

 首にネックレス代わりにかけていたホイッスルを咥え、甲高い音で鳴らした。

「今から僕が見本を見せるから、それを見て学んで。いい? 一回しかしない」


 四日目の夜だ。今日は疲れ果てたらしいアマモが先に寝たので、僕は皆との雑談に混ざれた。

「スマスクで音楽聴きたーい……」

「俺も……動画ずっと観れてないのが耐えられない……」

 スマスク中毒患者のノスリ(十三歳)、シロマル(十五歳)の苦しみの声。

「あああ僕も配信逃しまくってそうな気が……」

「私なんか、アラームを取り上げられたようなものだから、いつも皆に起こしてもらっちゃってる……」

 姉さんも意外とスマスク中毒だった。ヤイロは膝を見つめて「スマスク……スマスクがない……この世界の終わり」などと呟いている。病弱な彼女は立派に重症だ。在宅の機会が多いと、どうしてもそうなってしまう。

「おわ、君たち早く寝ないと」

 騒がしかったのを聞きつけて来たらしいウトウがすごい顔をしている。

「「「「「スマスクくださいぃ」」」」」

「え!! スマスク? 何それ!」


 五日目がやって来た。皆で作戦を立てることになり、案を出す。

 街長が敵だった場合と、味方だった場合のプランが出た。

 敵だった場合。街長とクマを倒さなければならない。街長に割く分の人員が一人以上必要だ。そしてクマがいると思われる、役場の最奥まで自分たちで行かなければならない。しかしその場合、自分たちは反逆者と周知されている可能性があるので、誤解を解くか最悪、複数の街の民を手にかけることになる。手際よく、かつ犠牲者を最小限に抑えるため、その場合の対人間役はウトウがすることになった。僕たち五人はカナリアと共にクマの許へ赴き、複数頭いるであろう彼らを駆除するのだ。

 街長が味方だった場合。僕たちは街長の手引きのもと、クマを駆除することになる。その時のプランは街長の都合などに委ねられることになり、大幅に変わる可能性がある。

 早めに下見をすることになったが、僕とウトウが向かうことになった。他の五人は訓練に向かう。

「門からしばらく歩くのか……」

 思わず漏らしたようなウトウの声には、緊張が滲んでいた。少しずつ白い壁に近づいていく。

 数日前に、僕たちが出たばかりの戸に着いた。数日、たった四日しか経っていないのに、もう一ヶ月も外にいたような気さえしてしまう。

「……ここから、中に入れるんだ」

「なるほど、ここか」

 帰ってきた嬉しさがある一方で、僕の声は沈んでいた。戻ったら、この扉を開けたら。街の皆はまた、僕たちを受け入れてくれるだろうか。街長様は僕たちの味方なんだろうか。本当にクマが支配しているというのか。だんだん俯いて、扉の下に視界が落ちた。

「……あれ」

 扉の下から、見慣れないものがはみ出している。少し太めの糸だ。刺繍糸が確かこのくらいだった気がする。……シロマルと同い年くらいの子に、刺繍が趣味の子がいたから。

「キバシリ? 何かあったか」

 刺繍糸は緑で、見事に丈の短い草に紛れて煌めいていた。僕は躊躇わずそれを引っ張り出した。

「……!」

 先には封筒が括り付けられていた。その場で開けて、内容を確かめる。

『君たちが街を出た日を一日目として、七日目の日没後に来なさい』

 端に、街長の名前ともう一つ、あの刺繍が好きな子の名前が記されていた。

「七日目……。明後日かな」

 これで、街長様が味方だと確定した。僕も訓練に出るため、下見はこれで引き上げることにした。


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