第十一話 討伐作戦
「おねえさんおねえさん」
シロマルがお姉さんの服の裾をきゅっとつまんで、上目遣いに見上げた。不安げな声音だ。
僕たちが何度も見てきた、シロマルの得意技が始まった。
「どこの子か知らないけど、アタシ子どもの相手は……」
子どもといっても十五歳。まあまあ大きいのだが、シロマルは小柄で声もやや高めなのだ。おまけに銀髪で垂れ目なのが、甘えん坊で可愛い子どもという雰囲気を出している。お姉さんはシロマルの目の高さにしゃがんだ。シロマルの目がうるむ。
「おねえさん……。ぼくたち、じゃまだよねぇ? ぼくたちは、いなくなったほうがいいんだ」
「ゔああぁぁぁー」
演技が上手いのか、ノスリも僕の横で泣き始める。女性とウトウが慌てているが、ウトウは半ば呆れ気味だった。二人とも、一度としてウトウにそんな話し方をしたこともなかったから、当然だろう。
「お、落ち着いて、二人とも」
ウトウがノスリを抱きしめて撫でるも、落ち着く気配などない。それどころか振り払われ、ノスリは突っ伏して泣き始めた。
おかしいな。二人とも、十歳は過ぎているのだが。ヤイロと僕、オオルリ姉さんは部屋の奥でこの戦いを見守っている。二人の迫真の演技を邪魔しないよう、こちらも不安げな顔を必死で作っているのだ。もちろんこれももう慣れっこだが。
シロマルは女性に抱えられて、少しずつ落ち着いてきた風だ。そして、このタイミングで始まるのだ。
「おねえさん、ぼくこわいよ。しらないところにきて、おじさんにたすけてもらった。でも、ここどこ?ぼく、なにもわからないんだ」
不安さを装って、わずかに声が震えている。女性はそっとシロマルを抱きしめた。
「あいつは何も教えてくれなかった?」
「……こわくて、きけなかった」
「…………確かに、怖いねえ」
女性はウトウをじっくりと眺めてから言った。ウトウはノスリを宥めようとしたが失敗し、頭をぽりぽりと掻いている。ノスリも女性にしがみついていた。
「じゃあお姉さんが教えてあげようか。二人とも、こっちにおいでね。二人だけ特別に教えてあげよう」
そう言って、女性は二人を抱えて行った。足音からして、おそらく書斎の方だろう。
こちらも、ウトウを問い詰めなければならない。
「ウトウ? 彼女は誰?」
ウトウを見るが、目は合わなかった。
「やーその、ちょっと……幼馴染っていうか……」
「これは彼女確定だな。ガール・フレンドゥ!」
ひゅーひゅー囃し立てるアマモはうるさいが、いよいよそんな気がしてきた。
「…………あの女性が、好きなの?」
まだ僕もぎりぎり子どもだから、これくらいの発言は許してもらいたい。案の定、ウトウがぎくりとした。ぎこちなく僕の方を見て、それから諦めたように言った。
「好きなんだけど……勇気が出ないんだ。いっそ向こうから言ってくれたらなあー……。速攻で付き合うのに」
「うっわー、他力本願、無理だろこれ」
アマモだけではなく、姉さんとヤイロもドン引きしていた。
「いや、自分で言わないと意味ないよ……」
思わず出た僕の発言に、ウトウは今にも泣きそうな顔になった。
二十分程して、三人が戻ってきた。二人は、女性にかなりなついたふりをしている。あくまでもふりなのだ。警戒を解かず、情報を引き出したいだけだ。
「おねえさんの国、行ってみたいなあ」
「僕も僕も! いっぱい遊ぶんだあ」
女性は外国人だったのか。意外だ。女性は客間に入ると一礼し、自己紹介を始めた。僕たちはウトウの未来の彼女に、滞在を許されたようだ。
「あいつ……ウトウって呼んでるんだっけ? ウトウの幼馴染です。……なんと、アタシもシロマル君に名前をつけてもらえました! せーのっ」
『カナリア!』
三人に名前を発表されて、こちら側からは拍手が沸いた。盛り上がっているのだろうか、これ。よくわからない。
拍手が止むと、カナリアは咳払いを一つし、真剣な顔つきになった。
「シロマル君たちから聞いたよ。主のクマを倒したいんだって?」
作戦もいいけど、そこに実力が伴わないといけない、と彼女は熱く語り始める。
「いいかい?作戦は、実力を最大限に引き出すためにあるんだ。重要なのは、相手の弱点と仲間の欠点、それに仲間の長所と相手の特技だ。あとは場所と時間、これも加味して動かないといけない」
「全部大事なのかー。つまらな」
暇そうにアマモがカナリアの眼前を漂っている。ふわりと煽られたカナリアの髪が揺れた。
「……仲間のことを、ちゃんと知る必要がある。君たちはどれくらい、仲間のことをわかっている?」
「わっからなーい。自分のことは自分にしかわからないだろーよ」
「練習をしながら、仲間の弱点や長所を知っていけばいいと思ってる。だからまずは、銃を使うにも向き不向きがあるから、それを確かめよう」
アマモのふざけた返事があっても、話は進んでいく。僕はあまり真面目に聞いていなかった。
「銃が苦手な人は、何をすればいいですか」
オオルリ姉さんは至って真剣に質問している。アマモとふざけ半分に聞いていた自分が、途端に恥ずかしくなった。
「そういう人には、陽動役を任せると思う。今ここにいるのが七人、銃が四丁だから、最低でも三人には陽動役をしてもらう。きっと街に入ると、警報か何かなると思うからね。一人ひとりばらばらに、別々の動きを取ってもらう」
僕はちらりとアマモを見た。僕に銃は扱えるのだろうか。
「何でもやってみたらいいと思うけどなー」
妖精とはいえ、さすがにアマモにもこれはわからないのか。




