王国歴1455年から1458年頃
二十三 つぐみより 芽吹きの月
芽吹きの月に入り、温室の鉢がまた若い芽を伸ばしはじめましたが、今年の私は芽よりも先に、聖燭の月の十日のことばかりを思い返しております。ひわ様のお義母様とご主人が巡礼にお発ちになったその日の夕方、ひわ様の馬車が門をくぐったときのことを、子どもたちは今もしきりに話しております。主人は例年のとおり祭礼の支度で領内を回っておりましたので、あの三晩、この家の奥にいたのは私たちと子どもたちだけでございました。
寮を出てから、同じ屋根の下で夜を越したのは初めてでございましたね。寮の寝台は二人には狭うございましたが、私の寝台は二人でも広すぎるはずですのに、三晩とも、寮の頃よりも狭く眠りました。
寝間の花瓶には、ひわ様と私とで一本ずつ選んだ花を挿しておきましたが、明け方に目を覚ますと、ひわ様の一本が私の一本にもたれかかっておりました。起こしてしまわないように、空が白むまでじっと見ておりましたのを、ひわ様はご存じなかったでしょう。
押し花のほうも、もう寮の頃にしなかった遊びとは申せないほど手慣れたものになりました。慣れたぶんだけ急がずに、一枚一枚ゆっくりと押せるようになった気がいたします。
坊やは、ひわ様がほんとうに三晩も泊まっていかれるのかと何度も私に尋ねにまいりました。娘はお帰りの朝、馬車が見えなくなるまで門の柱にしがみついておりました。袖の葉は、少しは進みましたでしょうか。
二十四 ひわの下書き 花冠の月
……寝間の花瓶のことを……
袖の葉は九十二枚になりました。三晩で三枚です。〔朝が来なければよいと〕……
……主人は巡礼から戻ってから、前より……
二十五 つぐみより 実りの月
実りの月に入り、温室の棚の果実もようやく色づいて、娘が毎朝ひとつずつ数えては、まだ摘んではいけないのかと私に尋ねにまいります。先日の茶会で、ひわ様が私の髪を梳いてくださったとき、白いものを一筋見つけたとおっしゃいましたね。私もとうとう三十を過ぎましたので、驚くことではございませんのに、お帰りの馬車を見送ったあと、鏡の前で長いこと探してしまいました。
近ごろは花に雨の降る日もときどき前後するようになって、月の暦が当てにならなくなりました。お茶のほうも、湯がたぎるまでに若い頃よりずっと時がかかるようになりました。そのぶん、たぎってからは冷めにくく、日が傾くまでぬるいお茶を何杯もいただくようになりましたね。花びらを一枚ずつ数えるように、ゆっくり愛でていただくのが、今の私にはいちばんうれしゅうございます。
坊やは十一になり、主人の雇った師について読み書きを習い、いつか学府へ上がりたいと申しております。娘は九つで、ひわ様のように針を使えるようになりたいと言い、ひわ様に習いたいのだそうでございます。お忙しくなければ、次の茶会で葉を一枚、教えてやっていただけませんでしょうか。
主人はこのごろ、北の山の村々に新しい道をつけるのだと申して、見回りのたびに山へ入っております。いつか子らが大きくなったら、私も一度その道を見てみたいと申しましたら、それならまず馬に慣れておかねばと笑われました。
ひわ様もどうぞお体を大事になさってくださいませ。
二十六 ひわの下書き 実りの月
お手紙拝見しました。
白いものの一筋は、櫛に絡んだのを抜かずに持ち帰り、針箱の糸巻きに巻いてあります。〔捨てられませんでした〕
私のほうは、近ごろ針に糸を通すのに、窓辺まで寄るようになりました。お嬢様には喜んで葉を一枚お教えします。最初の一枚は、誰でも曲がるものです。
ぬるいお茶を何杯も、私も好きです。日が傾くのが、前よりも早く感じられるようになりました。〔つぐみ様の前でだけ、年を取るのが怖くありません〕
お義母様は近ごろ足を悪くされ、もう巡礼には出られないとおっしゃいます。主人は相変わらず書斎で休みます。
袖の葉は九十七枚になりました。あの三晩のあとは三年で五枚です。
二十七 つぐみより 聖燭の月
聖燭の月に入り、……今年も主人は祭礼の支度で領内を……一輪を用意して……
……坊やが、来年は主人について北の山の……
……ひわ様の……




