6. 冒険者
「冒険者?」
「げっ、あいつらかよ」
ルチルはオウム返しに尋ねたが、敏感に反応したのはオニキスだった。
「知ってるの?」
「知ってるも何も……。昔よく、いやええと、巣のあたりに何度も来てたっつーの」
オニキスはおじさんのほうをちらりとうかがいながら言った。
なるほど、ドラゴンの巣にってことか。
「オニキスは雪山育ちだったっけ」
「ああ、まあな」
おじさんや長屋の面々には、オコジョ型の幻獣ということで通しているオニキスだ。
言葉を選びながら説明する。
「……俺の住んでた山にスノードラゴンが棲み着いてるって噂があってなあ。命知らずどもが、名声だの財宝だの目当てで年がら年中やって来てたんだわ」
「それは……迷惑な話だね」
「ああ、まったくだぜ」
スノードラゴンとしてはおちおち暮らしていられなかっただろう。
おじさんは何か感慨深げにしている。
「なるほど、幻獣からすればそういう話になるのか……」
「冒険者ってのは、強大なドラゴンだの、危険なアンデッドだのに喜んで喧嘩を売りに行く、いかれた野郎どもだろ。俺としちゃ、なるべく関わらずにいたいもんだ」
ルチルがちらりとオニキスを見ると、首の後ろの毛が逆立っていた。よほど嫌なのだろう。
しかし、おじさんは顔の前で手を振った。
「いやいや、そういう輩ばかり見ていたなら仕方ないけどね、そんなのだけを冒険者だと思わないでくれよ。君の言うとおり、富と名誉だけを求めて突っ走る奴らもいるにはいるが、実際のところ、大半の連中はもっと堅実な暮らしをしてるんだ」
「本当かぁ?」
「堅実、ですか?」
「うん。たとえば、農地を荒らす害獣を追い払ったり、危険な場所を移動する人を護衛したり、といったのが主な仕事でね」
「あ、だから戦えるか聞いたんですね」
なるほど、と腑に落ちる。
「そういうことだね。本来はそういったのも、正規の軍の仕事になるんだが、やはり手が回らなかったり小回りがきかない場合も多いからな。そういうときに頼られるのが冒険者ってわけだ」
「なるほど」
「俺も、何度か退役する元部下を斡旋したもんだよ」
「うーん……」
「もちろん、それなりの危険はある。だがその分、報酬も弾んでもらえるぞ」
報酬。
「……お金!?」
俄然ルチルはやる気になった。慌てたのはオニキスである。
「あっ、おい待て、こら」
「冒険者の組合があってね。そこを通して仕事のやりとりをするんだ。報酬は危険度や拘束時間に応じた基準があるから、ある程度は保証されてるぞ」
「へえ、冒険者にも組合があるんですね。それって、入るのに紹介とかは要りますか?」
「なくても大丈夫だが、身元に関しての保証だったら俺がしてやれるよ」
「えっ、いいんですか」
「長屋のよしみだからね。……そうそう、ギルドに入れば、住宅補助も受けられるらしい」
「やった! 助かる」
「待て待て待て」
オニキスはぺしぺしと尻尾でルチルの肩を叩いた。
「お前わかってんのか。冒険者になるってこた、戦うってことだぞ」
「うん、それが?」
「身を守る力があるってのは本当だが、お前、たいして実戦経験はないだろが。旅をしてた頃、獣を追い払った程度だろ」
「まあそうだけど。どんな仕事でもやってみるまでは経験なんてないもんじゃない?」
オコジョはいよいよ渋面になる。
「ふつうの仕事とは話が違うだろうが」
「その、ふつうの仕事に当てがないから困ってるんじゃん」
ルチルも一歩も引かない。
横で聞いていたおじさんが口を挟んだ。
「未経験から冒険者になる人も多いからね。初心者支援は手厚かったはずだよ」
「だって。ほら」
「そうは言ってもなあ……」
「すまんね。俺が、他の仕事を紹介できればよかったんだが」
そう言われてしまうと、オニキスも気まずげな顔になった。
しゅんと尻尾が下がる。
「……いや、あんたを責めてるわけじゃねぇ。俺の方こそ悪ぃな、気を遣ってもらってんのに」
「いやいや。……何が何でも冒険者にならなきゃいけないって話でもないんだ、とりあえずは実際のギルドの様子を見に行ってみるのはどうだい?」
「あ、それは確かにいいかも。明日にでも行ってみようよ」
「……まあ、見るだけなら構わんが……」
相棒の譲歩を引き出して、ルチルはここぞとばかりに声を張り上げた。
「よし、じゃあ決まり! やった、一歩前進!」
オニキスも、まあ仕方ないか、というふうに肩をすくめた。
「……おう。いろいろあんがとな、おっさん」
「ああ、それじゃ紹介状を書いておくよ」
「ありがとうございます」
「頼んだ」
三人は口々に挨拶をして、夕食の準備のためにそれぞれの部屋に戻っていった。




