5. 提案
「よっしゃ、そうと決まれば先立つものが必要だな」
待ってろ、とドラゴンは部屋の中に戻った。
「先立つもの?」
「ああ、金だよ、金。使ったことあるか?」
「ううん」
ドラゴンが壁の一部に爪をかざすと、どういう仕組みでか、そこが開いて引き出しほどの空間ができた。
ほれ、と促されて覗き込む。
中には色とりどりに光る石のようなものや金属、何かが印刷された紙が無造作に放り込まれていた。
「俺たちドラゴンは金銀財宝を好んで溜め込むってアイザックは知ってたからなぁ。協力料としていくらかもらってたんだよ。当面はこいつでしのごうぜ」
「うん」
「貨幣から使ってくんだぞ。こいつはこの辺の地域でしか通用しねぇからな」
「かへい……? わかった」
*
「いやぁあの時は、オニキスが、宝石をパンに替えるのを嫌がるタイプのお金持ちじゃなくてよかったよ」
薬屋からの帰り道。当時のことを思い出してルチルはしみじみと言った。
あれからそんな寓話が書いてある絵本を読んだのである。
「バカ言え、そんなことするかよ」
ルチルの頭に乗ったオコジョは、つんつんと不満げにルチルの髪を引っ張った。
これがあの巨大なドラゴンである。
本来の姿を維持するには特殊な魔力とやらが必要らしく、塔を出てからは基本的にこの格好でついてきてくれていた。
とはいえ、街の人に紛れるにはちょうどよかった。
ペットや召喚獣、守護獣と呼ばれる存在を連れている人は、そんなに多くはないもののたまに見ることができ、そういった存在だと誤魔化すことができたので。
このあたりは国境を一つ越えた国の、よく栄えた地方都市である。
ルチルとオニキスは、彼の財産を少しずつ崩しながらこの街にたどり着き、親切な人に出会ってようやく長屋におちついた。
そして数年、最近では何かのためにわずかに残った宝石を隠し持ちつつ、ルチルの稼ぎで家賃や食費をまかなう生活を送っていたのだが。
「ま、そんなわけで、お金を稼がなきゃいけないと思うんだよ」
ルチルは仕切り直した。
「そうだなあ。……お前、いくつになったっけ?」
「十六」
「そうか。その年なら、前よりいろんな仕事はできると思うが。売り子だの、給仕だの……」
「なるほど。どうやって探せばいいかな」
「わからん。前みたいに、紹介を探せばいいのか?」
「そうかも」
あー、とオコジョは頭を掻いた。
「どっかの職人の徒弟にでもなれりゃ安泰らしいんだがな」
「お弟子さんってやつ?」
「そうだ。さっき洗濯屋のおかみさんが言ってただろ。ああいう時、弟子だったら一緒に連れてってもらえるかもしれん」
「組合って言ってたね」
「そう、それのことだ。多分だがな」
「ふうん。でもそれも、紹介でなるんじゃない?」
「そうなるよな……」
子供の頃を世間と隔絶した環境で過ごしたルチルと、そもそもドラゴンのオニキス。
数年くらいの知識では補えないぐらい、二人は世間知らずで、それ以上に人脈が皆無であった。
そんなわけで、「お金が必要だ」という共通認識を打ち立てただけで、たいした結論も見通しもなく長屋に帰り着いてしまう。
「うーん……。ただいまー」
「おかえり、ルチルちゃん、オニキス」
ちょうど庭にいて出迎えてくれたのは、今朝方最初に声をかけたおじさんである。
何やら国のために仕事をしていたという人で、怪我をして引退したと聞いていた。
「あ、朝はどうも」
「よう、ただいま」
「何か難しそうな顔をしてるが、今後のことかい?」
「はい、そうなんですけど……」
「あんたはどうするか、決まったのか?」
オニキスが尋ね返すと、おじさんは苦笑いした。
「まあね。戦傷者向けのホームってのがあってさ、そっちに移ろうかと思ってるんだ。今までは辛気臭そうだからなんとなく避けてたんだが、どうやらそこで自由に内職なんかもできるらしいし」
「わ、それならよかったですね」
「おかげさまでね。二人は何か、やりたいこととかあるのかい」
水を向けられて、ルチルは帰り道にオニキスと話していたようなことをかいつまんで伝えた。
「なるほど……。確かにだいたいの仕事で紹介者は必要になるわな」
「ですよねえ」
ふむ、とおじさんは頷いて切り出した。
「前に二人、弱い魔物からなら身を守れる程度の能力はある、って言ってたよな?」
「あ、そうです」
「大したもんじゃないけどな」
オニキスの、ドラゴンとしての力を少しなら使うことができるのだ。
「ああ。じゃあ、少し危険になるんだが、紹介できそうな仕事がある。そのぶん報酬はがっぽりもらえるよ」
「おお?」
「なんですか?」
身を乗り出すようにして聞いた二人に、おじさんは指を立てて告げた。
「冒険者、はどうだろう」




