37. 茶会
「こちらとしても願ったりだったんだよ。ほら、ルチルは支援の技が使えるじゃないか。うちはそういうの足りてなかったからなあ」
こんがり焼かれた菓子をつまみながら、からりとエドは笑った。
街の中央広場を見渡すテラス席。ここは、カロンズという老舗の菓子店のイートインスペースである。
そう、彼らと出会ったときにひったくりに遭っていた老婦人のお店だ。
あの時お礼をと言われたのをルチルはすっかり忘れていたのだが、『銀の天秤』に加入してまず最初に、「ルチルちゃん、お礼を受け取りに行ってないでしょ? あそこのおばあさんが気にしてたよ」と指摘され、それじゃあとお茶をしに来ることになったのだった。
もちろん、ルチルの加入と、全員の昇格の祝いを兼ねての席になっている。
それを告げていたので、卓に出されているお菓子は伝えた予算よりだいぶ豪華だ。店主の気持ち、ということだった。
『銀の天秤』は三人とも甘党だそうで、次から次へと菓子が消えていくのは気持ちいい。しかし眺めていたら、ルチルちゃんが食べていないと取り皿に山盛りにされた。お、おう。
正直、見たことも食べたこともないものばかりで、どれから手をつけていいのかわからないのだが……。
「あたしのおすすめは、そのピンクのやつかなー。中に挟まってるジャムが甘酸っぱくておいしいよ」
「菓子店の腕はシンプルな焼き菓子でわかると思うんですよね」
「やっぱりクリームがたくさん載ってるやつが一番うまいんじゃないか? 景気もいいし」
「ケーキだけにな」
オニキスのボケだかツッコミだかわからない一言はスルーされた。
「オニキスは甘いもんはそんなに好きじゃないのか? 酒飲みってそうだよな」
「いや、俺は何でもいけるぜ。特に、かき氷とかシャーベットとかグラニテとか好きだな」
「全部氷じゃん。さすがスノードラゴン」
絡んだエドが笑う。
そういえば、それの扱いってどうなったんだろう?
「別に箝口令とかはしかれなかったぜ。というか、言ってもまず信じてもらえないだろうし」
「それは確かに……」
「さすがに正面から目撃した『歌う樽』の方々はいろいろと勘づいていらっしゃるようですけどね」
「あれじゃない? 公然の秘密、ってやつ」
「あー……それも抑止力として使うつもりか、ギルドは」
オニキスがちょっとげんなりした顔になった。しかしすぐに首を振る。
「ま、そういった人間の人間らしいところも悪くねえたあ思ってんだけどな、俺は」
「お褒めいただきありがとう?」
「オニキスも、我々から見るとじゅうぶん人間くさいですけどね」
「それはそう」
「いや褒め言葉じゃねえよなそれ?」
あはは、とまた笑い声が上がった。
「……そういえば、ルチルちゃん、家の話考えてくれた?」
「あっ。ぜひ、お願いしたいです」
『銀の天秤』は、共同で一戸建てを所有しているという。
まだ部屋には空きがあるそうで、その一つに引っ越してこないかと誘われていたのだ。
「でも、ほんとに家賃はなしでいいんですか?」
家賃なし、もしくは宿生活を続けるならそのぶんの宿代を支払う。そういうふうに聞かされていた。
「ああ、それな。家賃がなしっていうか、報酬の半分をパーティーの共有財産にしてて、そこから管理費を出してるんだ」
「なるほど」
「宿代もそこから出すつもりでいたから、引っ越してきてくれた方が何かと手間はないかな」
「そうなんですね。……うん、お世話になります」
改めて頭を下げると、レジーナがはしゃいだ。
「やった! じゃあ、この後さっそくカーテンとか買いに行こうね。好きな色とか柄とかある?」
「えっと……好きな……」
「お待ちなさい、その前に、どの部屋がいいか実際に選んでもらう方が先でしょう」
「それもそっか」
「オニキスにも一部屋いるか? まだまだ空いてるぞ」
「あー……掃除が楽なら、ぜひほしい」
「ってーと、手狭なほうがいいか? リフォームしてもいいな」
わいわいとこれからの計画に話が弾む。
ルチルにとっては、お菓子と同じくらい、新鮮な経験だった。




