36. 昇格
「さて、改めましてお二人にお話があるのですが」
ルチルたちと同じテーブルについた職員のお姉さんは、パンフレットのようなものを差し出した。
金剛石、鋼玉、柘榴石、黄玉、水晶……と宝石の名前が並んでいる。最下部の長石、琥珀まで読んで、思い当たった。
「これって、ギルドの級ですか?」
「はい、その通りです。以前の説明では、長石から始めていただくことをお伝えしたと思うんですが……」
「そうですね」
「黄玉級で、冒険者としては一人前とされてます。うちの支部ですと、『歌う樽』さんと『銀の天秤』さんがそうですね。……どちらも、今回の功績で柘榴石級に昇格が決まってますが」
「へえ、今度会ったらお祝いしなきゃ」
「ぜひに。……そして、ルチルさんにも昇格のお話が来ています」
「えっ」
ルチルは単純に驚いたが、オニキスは慎重だった。
「……それは『功績』で……ってことじゃねえよな」
「はい、遺憾ですが、お察しの通りです。いえ、功績としての側面がないと言ったらそれも嘘になるんですけど」
「どういうこと?」
「……ギルドは俺たちに首輪をつけたい、ってこった」
「……ああ……」
職員はうなずく。
「先日の緊急依頼で、水晶級以上の冒険者には周辺調査の義務が課せられました。討伐依頼についても、構成員の半数以上が黄玉級であるパーティー四つに徴集をかけた形です。ギルドにはそういった強制的な側面があります。……そして、さらに高い級の方や、そうでなくても例外的に強い戦力をお持ちの方には、原則的に居場所を常時お知らせいただくようなお願いもしています」
「例外的に、高い戦力」
オニキスが該当するのだろう。
「表向きには、容易に対処できないような難事が発生したときのために作られた制度ではあります。ですが、オニキスさんが首輪とおっしゃるのも、ある意味では正しいと、個人的には思います」
「そんなこと、正直に言っちゃっていいんですか?」
「お二人も誠実でいらっしゃいますからね」
お姉さんはまた微笑む。
……そうか。
自分は周囲の人に恵まれているのかもしれないな、とルチルは思う。
「ルチルさんにはまず、水晶級への昇格。それと、ギルドが指定したパーティーへの加入、もしくは現在地を随時ギルドに共有すること、このいずれかをお願いすることになりました」
「え、いずれかなんですか?」
「場所の共有は必須じゃねえのか?」
「はい。オニキスさんの力を万全な形で発揮するのにはいろいろと込み入った条件が必要なようですし、何しろ、カルマが善の方に振り切れていらっしゃいますので」
「……ドラゴンにそれは、褒め言葉にならねえっての……」
オコジョはぽりぽりと鼻の横をかいた。
「念のため聞いとくが、ギルドだって抜けちまえばそういった強制力の類はきかねえんだろ?」
「そうですね、できるだけその道は選んでほしくはありませんが、そういうことになります」
「まあ、俺としてもそりゃ最後の手段だ。あんたらの上がよっぽどの無理難題を持ちかけてきたときのためにでも、とっとくことにするわ」
「ありがとうございます」
ふむ。ルチルはうなずいた。
「って、ことは……」
「ああ。お前さんが嫌じゃなきゃ、受けてもいいんじゃねえか」
「昇格と、えっと、パーティー加入?」
「はい、そうなります」
「なるほど……。ギルドの指定パーティーなんですよね。どこのパーティーなのかは、もう決まってるんですか?」
そこでオコジョが意味深にふっと笑った。
「そりゃ、決まってるだろうさ」
「え?」
「これだけご配慮してくれてるんだから、な」
「ふふふ、好意的にとらえてくれてありがたいのですが、実はあちらから立候補があったんですよ」
「へえ」
「……え?」
またしてもオニキスとお姉さんだけが何かしら理解しあっている。
オコジョは髭をぴんと立てた。
「『銀の天秤』だろ?」
「おっしゃるとおりです」
「えっ……あっ!」




