38. 価値
明るい寝台で、ルチルは目を覚ました。
チュンチュンと、すぐそばから鳥の声がする。
夢を見ていたようだ。だが、その内容はぼんやりとしているうちに、意識の彼方に消えていってしまった。
……とりあえず、起きるか。
柔らかい寝台を這い出して、黄色いチェックのカーテンに手をかける。
しゃっと寄せれば、外から光が入り込む。
近くの木の枝にいたスズメたちが驚いて舞い上がった。
朝の太陽の光に照らされた部屋には、かわいいものばかりが揃っている。
ベッドは猫足で、今日の寝具は枕もシーツもピンクだ。
その隣には読みかけの本が置かれた小さな台がある。据えられたランプは、レジーナたちからの誕生日プレゼントだ。
ルチルはまず、クローゼットに向かった。
扉を開ければ、何着もの服がかかっている。そのすべてが、明るい色合いの若い娘らしい装いだ。
……正直、どれがいいとか、ルチルにはよくわかっていない。
だが、一緒に買い物に行くと、レジーナや新しくできた女友達がみんなあれもこれもと勧めてくれるので、そのとおりに買っていたら、こんなクローゼットになってしまった。そろそろ買い物をセーブしないといけないかもしれない。
そんなことを考えながら、今日は白いブラウスと水色のジャンパースカートにする。
これは最近、冒険の日に着ているお気に入りだ。
そう、今日は仕事の日だ。
ちょっと遠い場所への護衛依頼だと聞いている。危険な場所を通るので、じゅうぶんに支度していかなければならない。
「……ふふ」
含み笑いが漏れた。実は、ちょうど試してみたい魔法具があるのだ。
ルチルのような、相棒の幻獣から力を借りるタイプの職業向け、という触れ込みの腕輪だ。技の威力が上がるというのだ。
とはいえオニキスは並の幻獣ではない。効果は半信半疑だったが、店先で試させてもらうと、盾の出がいつもより若干早くなった気がした。
これは、仕事でより上位の技を使ってみると、もっと効果が実感できるものかもしれない。そう思ったら財布を開くのに躊躇はなかった。
そう、あれからルチルは技も磨いたのだ。
身体強化の技は自分だけでなくパーティーのみんなにも同時に掛けられるようになったし、空を飛んだり暗いところをよく見たりといったこともできるようになった。
強化の技は盾と一緒にかけられるので、まずはそれが大きな進歩である。
そのうち、盾と飛行を同時に行ったり、盾と攻撃を同時に行ったりもできるようになるんじゃねえか、とオニキスは言っていた。楽しみだ。
楽しみといえば。
その魔法具を売ってくれた商人に聞いたことなのだが、遠く東方には、ルチルのように幻獣と契約をして力を借りるという人たちがいるらしい。
ドラゴンかどうかはわからなかったが、契約によって空を飛んだり、足を早くしたり、炎を吐いたりするそうだ。
もしかして、ルチルが施されていた塔での教育は、それを研究した成果だったのかもしれない。
そんなことをオニキスと話し合っていたら、東方にいつか行ってみたいか? とエドに尋ねられた。
それもいいなと思ったが、それよりも、聞いてきたエドのほうがどうやら興味津々のようだ。
何やら怪しい巻物を買ってきたり、アイテムを探したりして研究に余念がない。
そう、最近は仲間たちの好きなものや興味のあるものがなんとなくわかってきた。
エドは新しいものや知らないものが好き。オニキスによく質問している。
そのオニキスは、実は知識を蓄えるのが趣味で、ここに来てから分厚い本を読むようになった。
あれらの知識はその趣味に裏打ちされていたのだ。
レジーナは贈り物や催しが大好きで、パーティーの全員に積極的にプレゼントをしているが、実はこの間、サイの誕生日があった。
そのプレゼントを買うために、エドとルチルは丸々一週間連れ回されたのだ!
ルチルはびっくりしたが、エドはまたかよ……という顔をしていた。というか、実際に言っていた。
どういうことかよくわからなかったが、そのサイはといえば、時々物陰からレジーナを見てため息をついている。
見ているのがバレるとしっしっと手で追いやられるので、未だにそれがどういう意味のため息か、確かめたことはないのだが。
そのうちこっそりエドにでも聞いてみようかと思う。
いつか、東方にみんなと行けたら楽しいだろう。
あとは、塔の場所も一度訪れておきたい。もう何も残っていないかもしれないが、今ならわかることもあるかもしれないので。
……でも、今はとりあえず目の前の依頼だ。
着替えの後、ドレッサーで髪をとかして、廊下に出る。
ちょうど隣の部屋のドアの下に設けられた潜り戸が動いて、オコジョが出てきた。
「あ、おはよ」
「おう、おはよう」
ルチルの部屋の隣はもともと小さめの部屋だったようだが、オニキスはそこをもらっていた。
家具はすべてオコジョの使いやすいサイズにリメイクされ、分厚い本を広げられる立派な机もある。
「今日は護衛だったか」
「そうだよ。あれ、使ってみようと思って」
「あれな」
例の魔法具のことだ。相変わらず、最低限の単語で会話が通じる。
一階に降りていく階段に向かいながら、ルチルはむふむふと笑った。
「なんだ、楽しそうだな」
足元をちょろちょろと歩くオコジョに見とがめられる。
「うん。だって、今日はいくらもらえるかな? って楽しみになって」
「はは、そいつは大事だ」
内装に、衣服に本に魔法具。その他の装備や、消耗品。
ルチルはたくさんのお金の使い道を知った。だけど、無計画に使うわけにはいかない。
引き続きオニキスやサイたちのアドバイスを受けて、しっかりと貯金もしている。
でも、だからこそ。
依頼人がルチルの能力に価値を見出して、それに対して支払ってくれたお金を、ありがたく思うのだ。
そして、それを好きなことに使ったり、好きな人たちのために使ったりできる幸運を噛み締めている。
──今。ルチルは自信を持って言える。
やっぱり、お金は大事だ。
そしてそれを、私は仲間との冒険で、稼いでいます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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いつか続きも書けたらいいなあ。




