33. 竜脈
「見ろ。あの裂け目だ」
オニキスに言われ、ルチルは目を凝らす。
ワイバーンの下には、岩だらけの地面を裂け目が横に走っていた。
同じものを見つけたらしいサイが声を上げる。
「ありますね。あれが竜脈ですか?」
「ああ、ひらたく言や、竜のなりした魔物に力を与える。あいつはあれのおかげで肉体を維持してるし、おそらく多少はパワーアップしてやがる」
「そういうことか……」
隣では『歌う樽』のリーダーが回復魔法を受け、戦線に復帰するところだった。
エドが声を張った。
「ワイバーンの下に地面の裂け目がある! あれから引きはがしてくれ!」
「……! そうだ、そうすりゃ勝ち目はある!」
オニキスも唱和した。真っ先に『歌う樽』が応じた。
「わかった! おいみんな、少しずつ下がるんだ!」
冒険者たちは隊列を維持したまま、じりじりと下がる。その間にもワイバーンは飛び上がっては人間に攻撃を加えていたが、ある程度の距離が開いたところで、警戒したようにこちらをにらむだけになった。
「勘づかれたか……?」
「かもしれねえな」
「俺がもう一丁歌おうか」
『歌う樽』のリーダーが申し出るが、それは危険すぎる。
そこであっ、とサイが声を上げた。
「『鏑矢』を持っています。低級の魔物が引きつけられる魔法がかかっています。通常は知能の高い魔物には効きませんが、もし『音』を警戒しているとしたら……」
「やってみてくれ!」
「……ええ!」
サイは矢筒から先に装飾のついた矢を取り出すと、後ろを向いて弓を引き絞り、力強く放った。
ひょうっと、高い音を立てて矢は消えていく。パーティーの背の方へと。
「ギャオン!」
ワイバーンはそれまでとは違う叫び声を上げると、高く飛び上がった。
脚が完全に地面から離れる。
──いまだ、と教えられなくてもわかった。
「身体強化っ!!」
ルチルは教えてもらったうち、一番難しい技を叫んだ。塔にいた頃は一度も成功したことがなかった。
自分の身体能力が劇的に上がる。
火事場の馬鹿力だ、二重の意味で、と思った。
肩からオニキスをすくい上げる。
振りかぶって、思いっきり──投げた。
がら空きの竜脈へ向かって。
「ルチル!?」
「ええっ!!」
「何を!?」
周囲から驚いたような声がいくつも上がる。そのうちの一つは、放物線を描いて飛んでいった。
「おまっ!?」
じっと見つめるルチルの視線の先で、オコジョは悟りを開いたように飛びながら肩をすくめた。ように見えた。
次の瞬間。
小さなオコジョから、二枚の大きな翼が──生えた。




