32. 接敵
山の上には、大小の岩がごろごろと転がっている。
低木もちらほらあるが、ほとんどの緑はうっすらと土を覆っている草だけだ。
そんな殺風景な場所に、大きな影があった。
オニキスの本体よりは、大きくないな。
ルチルはのんきにもそんなことを思ってしまった。
こんなところでワイバーンとドラゴンの格の違いを思い知ってしまった形である。
ワイバーンは今は丸くなり、こちらからは二枚の羽と背、棘の生えた尾しか見えてない。
冒険者たちは小声で指示を出し合い、散開した。
「では、手はず通りに」
四つのパーティーが半円状にワイバーンを取り囲む。『銀の天秤』は右から二番目、その左隣が『歌う樽』だ。
まず動いたのは、一番右のパーティーの魔術師だ。魔法の腕では一番の実力者なのだという。
杖を掲げて呪文を唱える。眠りの魔法だ、とレジーナが小声で教えてくれた。
「! ガアアッ──!」
とたんに、ワイバーンが首を上げて咆哮を放つ。
魔法が失敗したのだ、とルチルにもわかった。
「次だ! 行くぞ!」
『歌う樽』のリーダーが高らかに宣言し、手持ちの竪琴をかき鳴らした。
心身を活性化させ、武器や魔法のダメージを上げる効果のある曲だという。
ルチルもうなずいて、自分と『銀の天秤』の全員に盾を付与する。
「防御の盾!」
「おっ、これか! 助かる」
「気をつけてくださいね!」
自分を棚に上げて、そんな言葉をかけてしまい、苦笑された。
サイが弓に矢をつがえる。今日はエドも弓だ。剣は鞘にしまって腰からさげている。
「はっ!! ──やはり、防がれますね」
気合いと共に矢が放たれたが、尻尾の一振りで打ち落とされてしまった。
「全身に風をまとってるって言ってたしな」
と言いながら、エドも射かけるが、効果がある様子はない。
左右のパーティーから攻撃魔法が飛んだ。雷や炎があたりを鮮やかに照らしながらバリバリと飛んでいく。
「翼を狙ってんのか。いい判断だ、だが──」
ぱり、とワイバーンの身体を光が包む。ルチルには見慣れた光だ。
「あれ、盾?」
「そうだな、俺のと同じやつだ」
「ん? ああ、幻獣の力ってやつか」
エドが横で納得している。まあそういうことにしておこう。
「あいつの力はおそらく、二本の角と翼が源になってる。そこを撃ち抜けりゃ、他の攻撃も通るようになるはずだ!」
「簡単に言ってくれるなあ!」
「見たところ、それらの箇所には強い防護の効果がかかっているようですよ!」
「そうだな、すまん!」
喋りながらも手を休まず動かしている二人にオニキスも怒鳴って返す。
尻尾や羽を振るって矢を打ち落としていたワイバーンが、苛ついたように身体を動かした。
「来るぞ!」
吟遊詩人が曲を変えた。こいつは攻撃阻害の歌だな、とオニキスがつぶやく。
「ルチルちゃん下がって!」
「はい!」
レジーナに言われ、さらに数歩下がる。
ワイバーンは撫でるように、人間たちに角や爪で攻撃を加えていった。
それぞれのパーティーは、装備や魔法でうまく処理したようだ。だが。
「グガアッ!」
吟遊詩人が邪魔な歌を歌っていると気付いたのだろう、ワイバーンが空中に飛び上がると、まっすぐに襲いかかってきた。
『歌う樽』から悲鳴が上がる。
「リーダー!!」
歌が途切れる。
ワイバーンは飛びさがり、元の場所に戻る。
『歌う樽』のリーダーはまだ立っている。
だが、全身からだらだらと、大量に血を流していた。
「『歌う樽』! 下がれ!」
叫びながらエドが彼らをカバーする位置に入った。
『歌う樽』の面々は、リーダーを回復させながらじりじりと距離を取る。
「くそっ! あいつ、歌が要だと気付いたな」
「それだけじゃねえ。竜脈の上で力を得てやがる」
「竜脈──?」
「ああ」
オニキスはうなずいた。その両目は、ワイバーンが踏みしめた地面をじっと見ている。




