31. 密行
翌朝、日が昇る前に起き、先輩冒険者たちとそろって朝食をとる。
基地に今いるパーティーは四組、その中でも『歌う樽』が一番の実力者で、『銀の天秤』がそれに続くのだそうだ。
この二パーティーを中心に、今日は全員が巣の攻略を目指すらしい。
ふむふむ。今のルチルにはたいへん有用な情報である。
「いってらっしゃい」
「うん、ルチルちゃんも気をつけて帰ってね!」
山を登っていく彼らを見送る。ルチルも空になった背負子を背に、フェアカヴィルのほうにいったんは向かった。
……しばらくして。
ほどよい木のうろを見つけ、そこに背負子を隠す。できるだけ身軽な方がいいだろう、今日は使いそうにない荷物もまとめて放り込んだ。
「よし」
気合いを入れ直して山に入る。
「よし、じゃねえんだがなあ……」
苦笑したオニキスだが、水先案内の役目は果たしてくれるようだ。
「巣はだいたいあっちだな。あいつらが登っていった尾根の、ほとんど頂上だと思えばいい」
「わかった」
慎重に、だが迅速に、向かわねばなるまい。
巣の方に近付いていくと、だんだん木の高さが低くなってきた。
大きな石もごろごろしている。
「……森じゃなくなっちゃった」
ルイバス山とはだいぶ勝手が違う。
「俺には懐かしい景色だがな。竜脈の影響か?」
「……ってことは、本当に竜脈が」
「ああ。なんとなくだが、ありそうな気がする。いい読みだったな」
「よかった」
これで、懸念のひとつは解消したと言えるだろう。
しかし、視界がよくなったことで、思いもよらない弊害があった。
「……あ、エドたちだ。……待って。えっと」
「どうした」
前方を進む冒険者たちの姿を発見し、ふと気付いた。
「これ、隠れて近づけなくない……?」
オコジョは今月一番の大きなため息をついた。
「………………。そうだな」
こうなったら、開き直ってそのまま進むしかない。できれば、ギリギリまで勘づかれないといいのだが……。
と、なるべく低木や岩に身を隠しながら進んだのが功を奏したのか、サイに見つかった時には巣はすぐそこまで近付いていた。
「ルチルさん!? 何やってんですか、あなた!?」
「えっ、ルチルちゃん!?」
鋭い叱責に、レジーナやエドも振り返る。それはそうだ。
観念して、ルチルは大岩の影から出て、彼らに歩み寄った。
「ええと。自分の身は自分で守るから、連れて行ってもらえませんか」
「どうして……?」
「理由は今は言えないんです。でも、絶対力になるってお約束します」
ルチルの真剣な様子に、『銀の天秤』や他のパーティーの面々は顔を見交わした。
こほん、と咳払いしたのは『歌う樽』のリーダーである、髭面の吟遊詩人だ。
「本当に自分の身は自分で守れるんだね?」
「はい」
「俺からも頼む。危なくなったら逃げる手段はある」
「…………わかった」
歴戦の冒険者だ。何か感じることがあったのか、彼はうなずいた。
「今から麓に送り届ける時間はない。その言葉を信じよう。そうだな……『銀の天秤』のレジーナと一緒にいなさい」
「ありがとうございます!!」
「恩に着る」
ルチルとオニキスは頭を下げた。
レジーナは、ルチルのほっぺたをつねる。
「あいたたたた」
「今はこのぐらいで我慢しなさい。街に帰ったら、お説教だからね」
「ひゃ、ひゃい……」
それだけで切り替えて、真剣な表情に戻るのはさすがベテランである。
……ワイバーンの巣が、すぐそこに迫っていた。




