30. 決心
ルチルとオニキスに用意されたのは、一人用のテントだった。
それじゃまた明日ね、はい、とレジーナと挨拶を交わし、中に潜り込む。
先輩冒険者たちは明日もまた攻略に挑戦するようだ。
食卓では、巣にいるところを叩いてみる、と話がまとまっていた。
ルチルはテントの中、毛布の上に座って、長いこと考えていた。
「──寝ねえのか」
オニキスに声をかけられる。
明日のためには早めに寝ておいた方がいい、それはわかっていた。だけど、
「オニキス」
「なんだ」
「氷の息吹って、」
「さすがにワイバーンには通らんだろう。翼を凍らせられるくらいの威力がありゃ別だが、今のお前にそれは無理だ」
言おうとしたことを先回りされる。長い付き合いだ。
だが、ルチルもそこで引き下がるつもりはない。
「オニキス、本来の姿の息吹なら?」
「そりゃな。ワイバーン程度に圧し負けるわきゃねえ」
ちらりとオニキスが竜のプライドを見せた。だが、本来の姿を見せるのには課題がある。
「それも竜脈があれば、の話だ」
ルチルは確信を持ってつぶやいた。
「……あるんじゃないかな」
「へ?」
「あるんじゃないかな、竜脈。だって……、ワイバーンって、竜なんでしょ?」
「──あっ!!」
珍しく、オニキスは声を跳ねさせた。
「そうか、ラザル山には竜脈があるのかもしれん。俺がこの距離まで近付いて感じ取れないぐらいだから、相当弱いやつなんだろうが」
はあ、とオコジョはため息をつく。
「だがそれでも、ワイバーン一匹の身体を維持するにはじゅうぶんだった。そういうことだな?」
「うん。そのせいで、ワイバーンが棲み着いて、他の魔物が追い出された」
「それだ」
うん、とルチルはうなずいて深呼吸した。大事なのはここからだ。
「……実際、元に戻れる? その竜脈で」
「……一瞬なら、いけるかもしれん」
オニキスの声も慎重だった。この会話がどこに向かうのか、彼も気付いている。
「ワイバーンの竜脈を奪えば、俺の姿も一瞬なら元に戻せるだろう。だが……」
暗がりでオニキスはルチルをじっと見た。
「だが、戻ってどうする。それに、ワイバーンの巣に行くまでは」
「……みんな、明日巣を討伐するって言ってた。だから……ワイバーンがそっちに意識を向けてるうちに……」
魔法で翼を打ち抜けないか。
幻獣で制空権をとるのは。
すべて、オニキスもルチルの横にいて聞いていた内容である。
先輩冒険者たちはまったく気付いていなかったが、そのどちらをも実現させられる存在が、横で彼らと一緒に汁物をすすっていたのだ。
「…………」
長い沈黙だった。
やがて、オニキスははあ、とため息をついて、がりがりと頭をかいた。
「わかったよ。負けだ。俺の負け」
「……いいの?」
「ああ。……だって、お前、あいつらが大怪我したり、街が襲われたりしたら、泣くんだろう」
「……うん」
やれやれ、とオコジョは肩をすくめる。妙に堂に入っていた。
「だから、仕方ねえ。……これはたぶん、俺がお前の保護者になるって言ったときから、既定路線だ」
「……うん?」
「ほれ、早く寝ろ。明日は早いんだろ」
「あ、うん」
ルチルは横になると、薄っぺらい毛布に潜り込んだ。
オニキスもすぐそばで丸くなる。
最後に、小さく言葉が添えられた。
「だが、一つ約束だ。……何があっても、自分を第一に守れよ。おやすみ」
「……おやすみ、ありがとう」




