3. 仕事
さしあたっては、今日の仕事が待っている。
ルチルはおかみさんと連れ立って洗濯屋まで行き、とりあえずいつもと同じ仕事をこなすことになった。
洗い上がった洗濯物をきれいに畳んだり、受付に立ってお客さんと品物をやりとりしたり。
てきぱきと手は動きながらも、やっぱり考えるのは立ち退きの件である。
「やっぱり、引っ越しは必要だよね……」
「そうなるよな」
オコジョはひげをゆらゆらさせながら神妙に頷く。
「今の条件で同じくらいの住み家を探すのは難しい、って話だったな?」
「……うん」
あの長屋に、大家の好意によって格安で住まわせてもらっていたのは本当だ。
息子という人が、それで採算がとれないと判断したのなら、仕方ない。
……やっぱり、お金は大事か。
ルチル個人としても、お金はなるべくあったほうがいいという考えだ。
そのために仕事を掛け持ちまでしているのだから。
そうだ、仕事。
つまり、新しい住居の家賃を払えるぐらいの仕事を探さなければいけない、ということだ。
だがそもそも、今の洗濯屋の仕事だって……。
「ここのお店も立ち退きかい?」
おかみさんが店に立っているときに来た客は、皆心配そうに尋ねていく。そのたびに、おかみさんは残念そうに答えていた。
「そうなっちまうだろうねえ」
客がはけたあと、オニキスが聞く。
「おやっさんとおかみさんはどうするんだ?」
「ああ、あたしたちは同業者組合があるからね。伝手をたどって、なんとかよそに店を出せないか、掛け合ってみるつもりだよ」
「なるほど……そういう便利なもんがあんのか」
「だいぶ厳しい決まり事もあるから、便利一辺倒じゃあないんだけどね」
そう言ってから、おかみさんはルチルに謝った。
「すまないねえ、ルチルちゃんも一緒に、と言いたいのは山々なんだけど……」
「えっ! いえ、今までじゅうぶんにお世話になったので!」
過分に気遣われて、こちらこそ申し訳なくなってしまう。
「そうだぜ、俺らは俺らで何とかやるから、あんたらは店のことだけ考えてりゃあいい」
「そうですよ。私たちは身軽ですからね。何とかなりますって」
「そうかい?」
おかみさんは苦笑いすると、そういえば、と続けた。
「薬屋とも掛け持ちしてるんだろ? 帰りにそっちの様子も見てったほうがいいんじゃないかい」
「はい、そうしてみます」
*
薬屋も洗濯屋と同じ並びの、少し離れた場所にある。
仕事を終えたルチルが、再びオニキスを頭に乗せて薬屋の店構えを覗くと、店主の老婆が奥で何かを整理しているところのようだった。
「おや、ルチルちゃん。オニキスちゃんも。上がっていくかい、お茶を出そうかねえ」
「いや、お構いなくだぜ。帰るところだからな」
「はい」
「そうかい。……立ち退きの件は、──その顔じゃ、もう聞いとるみたいだね」
ルチルは頷いた。
「うちの長屋もなんです」
「ああ、そうだったか」
「ばあさんはどうするんだ?」
店主は今まで整理していた荷物を振り返る。
「わたしゃ、前々から娘夫婦が一緒に暮らさないかと言ってきていてね。あっちの家に気を遣うから、体が動くうちはと断っていたんだが、そろそろ潮時なのかもしれないと思ってねえ」
「何言ってんだばあさん、あんたまだまだだろ」
オニキスがぶすっと言えば、店主はそうかい、あははと笑った。ルチルも続ける。
「そうですよ。でも、娘さんのところに行かれるんでしたら、安心ですね」
「そうだねえ。それよりも、あんたたちこそどうするんだい。長屋を出て、行き先は決まってるのかね?」
「それが、まだ決めてなくて」
ふむ、と店主はルチルの目をじっと見て言い含めた。
「そうかい、わたしでなにか力になれることがあれば、何でも言うんだよ」
「はい」
「ああ、そうさせてもらうよ」




