26. 一報
その後は朝まで襲撃はなかった。
夜が明けてから、様子を見に来た村長に報告がてらゴブリンの死骸を見せ、村長や居合わせた村人たちに大いに感謝される。
一息ついて、やはり、巣の退治もということになった。
バートがゴブリンの足跡をたどれるというので、最も日が高い時間帯に森に入った。
ほどなく崖に開いた小さな洞窟が見つかり、近くにいたゴブリンの幼体二匹を戦士たちが始末する。
しばらくあたりを捜索したが、もう何もいない気がする、とオニキスが言うので、村に戻った。
「これで、今回の依頼は終了?」
「そうだね。村長さんに終了のサインをもらって、ギルドに戻って報酬を受け取るんだ」
「そのあたりの流れも、おつかいと変わらないんですね。なるほど」
その日の夜は村長の家のベッドを借りた。
翌日早朝、奥さんが持たせてくれた昼食を手に、フェアカヴィルへの帰途につく。
夕方にはギルドへの報告を済ませることができた。
*
「こんな感じでいいのかな」
報酬を手にして、ルチルはギルドを出る。
今回の討伐依頼の報酬は銀貨三十三枚だった。端数の一枚は、薬草を消費したバートに回した。
そういうふうに報酬をわけるんだな、というのも勉強の一環である。
「おう。うまく立ち回れたじゃねえか」
オニキスはルチルの肩で尻尾を揺らしている。
「……場数を踏めば、もっとうまくオニキスの力を使えるようになる?」
「多分な。味方に掛けられそうな守護の技もいくつかあるし、強い魔物も相手にできるようになる」
「そっか」
ルチルは手を開いたり閉じたりした。
氷の息吹を出したときのことを思い出す。実質、感触などは何もなかったのだが。
ルチルが放った技で、ゴブリンにとどめをさしたのだ。
気をつけて使わないといけない力だな、と、改めて思う。
……ふと、それを預けてくれているオニキスの信頼を、ありがたく思った。
すると、敏感なオコジョはちらりとこちらをうかがう。
「……どした?」
「いや……いつもありがとうね」
「なんだいきなり、よせやい」
「……なんでもない!」
ルチルは走って宿まで戻った。
*
それからしばらく、簡単な討伐や護衛の依頼をこなす日々となった。
たまには、採取の依頼にも向かう。チャーリーと一緒になることもあった。
小さな子供たちの姿はなく、聞けば、今は街の中のおつかいに専念しているという。
というのも、だ。
「ルチル、聞いたか? サラマンダーみたいな魔物が他にも出たって」
「えっ、本当?」
「まじまじ。だからしばらく小さいのは外に出さねーことにしたんだ。俺たちも気をつけような」
「そうだね……」
他の冒険者からもそれとなく、護衛依頼が増えていると聞いた。
受諾の手続きをしながら、世間話がてらギルド職員に確かめてみる。
「確かに、そういった風向きはありますね。皆さん不安なんでしょうね」
「そんなにいっぱい魔物が出てるんですか?」
「数は多くはないようですが、フェアカヴィルの周辺は長い間平和でしたからね……。それに、これ」
職員が示したのは、掲示板の最上部に掲げられている赤い張り紙である。
「緊急依頼……?」
「はい。ルチルさんはまだ長石級なので該当者ではありませんが、ギルドからこういったものが出される場合があるんですよ」
紙には、周辺調査とある。
「今回は通常のお仕事のかたわらという形ですが、異状がないか見守ってもらっています。ルチルさんのお知り合いですと、『銀の天秤』の皆さんにもお願いしていますね」
「あの人たちに……」
*
そんなやりとりをして、数日経った頃だろうか。
ルチルはちょうど、仕事の報告のためにギルドにいた。
何度か姿を見たことがある、立派な鎧の男たちが息せき切って駆け込んできた。
鋭く叫ぶ。
「見つけた!! ──ワイバーンだ!!!」
ギルドは騒然となった。




