25. 小鬼
納屋の扉をそっと開けて、アン、バート、ルチルとオニキスの順に外に出る。
アンが小声で教えてくれた。
「あれ」
示された畑の向こうに、確かに小柄な影が動いている。
いち、に、さん。三体というのは村長からの報告とも合っている。
「ありゃ間違いねえ、ゴブリンだ」
オニキスが請け合った。
「見た感じ、ゴブリンシャーマンだのロードだのはいねぇな。ただのゴブリンだ。このまま戦っても危なげなく勝てると思うが、どうする」
小さなオコジョがしたり顔で言うのに二人は少し意表を突かれた顔をしたが、すぐにそうだね、とうなずいた。
「ルチルは支援を使えるんだっけ」
「はい、防御の力場を張れます」
「じゃあそれをもらって、俺たち二人で前に出るわ。ルチルは後ろで不測の事態に備えててくれ」
「わかりました」
そっと畑に近付いて、言われたとおり全員に盾を付与する。
「防御の盾!」
「ありがとう!」
「助かる、行くぞ!」
「──やあっ!」
戦士の二人が声を上げて飛び出す。
畑のゴブリンたちは、不意を打たれてうろたえ、手にした棍棒で応戦するのが一拍遅れた。
「ギャアアッ!」
バートの槍がまっすぐ突き刺さり、アンも剣でゴブリンを打ちのめした。
二対三で敵の方が一匹多いが、きちんと装備を揃えた冒険者の敵ではない。
アンが剣と鎧で三体の攻撃をいなし、バートが的確に反撃を加える。
ルチルは固唾を飲んで戦闘を見守っていたが、オニキスの言うとおり、二人の戦いは危なげなかった。
──と。
「あっ!」
「……ルチル!」
さんざん攻撃を受けたゴブリンの一体が、戦線を離脱して森の方へ逃げようとする。
二人がそれぞれ一匹ずつを相手している形になって、追う余裕がない。
オニキスに促され、ルチルはそちらに手を伸ばして叫んだ。
「うん! ……氷の息吹!!」
石畳や薬草を凍らせてきた、あの技である。
生き物に向けるのは初めてだ。だが、効果があるとは教えられている。
威力を調整せずに、思い切り放った。
「──ギャァアッ!?」
きらきら光る霜のようなものが、暗がりを裂いてゴブリンに襲いかかった。
途端にその皮膚が凍り付く。
ゴブリンは足をもつれさせて、その場にドッと崩れ落ちた。そのまま動かない。
「……倒した?」
「ああ」
オニキスの短い肯定が返ってくる。
……そうか、これが、討伐。
──なんだかあっけないな。
そんな感想が浮かんだが、ちょうどアンとバートがそれぞれのゴブリンにとどめを刺したことでかき消えてしまった。
「やあっ!」
「はあっ」
「……よし!! そっちはどう?」
「こっちも終わったぜ。さっき逃げたやつ……は、ルチルがやってくれたみたいだな」
「はい」
「ありがとう、助かった」
三人集まって、ゴブリンの死骸を検分する。
「たいしたものは持ってないな。棍棒と今掘った野菜くらいか」
「とりあえずここに並べておいて、朝になったら村長に見てもらおう。その後、巣を探すってことで」
「そうだな。それまでは見張りを立てて、寝直すか」
「うん。バート、そこちょっと殴られてたでしょ。薬草貼っときな」
「めざといな。ああ、そうするわ」
そんな会話をしながら納屋へと戻る二人に、ルチルもついていく。
最後に、畑の横に並べられたゴブリンをちらりと振り返った。
骸は何も言わなかった。




