21. 転機
ルチルは宿の部屋に帰ると、ベッドに腰掛けて、もらった皮袋の中身をあけてみた。
ひいふうみい……、銀貨がなんと、五十枚も入っていた。
「わあ……」
入会前に、一か月の収入のめやすとして告げられた額が丸々入っていたことになる。
「こんなにもらえるんだ……」
肩から跳び下りたオニキスが、ベッドの上であぐらをかく。
「……味を占めるんじゃねえぞ」
「占めないよ」
少し考えて、付け加える。
「……そっちこそ、危険だからやめろ、なんて言わないでよね」
オコジョは、は一、と大きく息を落とした。
「言わねえよ。──だがな、ルチル」
「うん」
「お前さん、また同じ状況になったら同じ選択をするんだろう?」
オニキスの声音は真剣だった。
ルチルは思い返してみる。怖い思いをした。先輩が居合わせて、すぐに助けてくれたのは、ただの幸運でしかなかったと理解している。
……子供たちのことを思い出す。
チャーリーや冒険者の男にしがみついていたあの表情を。
「うん」
「そうか」
オニキスはうなずいた。
「…………そうだよな。いや、責めてるわけじゃねえ」
「うん」
「俺もあんときゃ、それしかねえって判断したからな。けどな、また似たようなことが起こって、同じことをやろうとするなら、足りねえもんがある。わかるか?」
考えてみる。
……うーん。
「……戦闘の強さ?」
これだと思えるものはなかったが、とりあえず思いついたものを口にしてみた。
オコジョは手を振った。
「いや、まあ、似たようなもんだがちっと違う。経験だ」
「けいけん」
確かに、ルチルには戦闘の経験も、そもそもの冒険の経験自体も足りているとは言えないだろう。
ふむふむと頷く。オニキスは続ける。
「ま、こいつは俺の手落ちだ。お前を実戦から遠ざけていたのは俺だからな」
「でも、それは」
「ああ、当初の方針として間違ってたとは思わねえ。けどな、こうやって避けてても、危険は向こうからやって来やがったろ」
「そうだね」
「だから、間違っちゃいねえが、不十分ではあったんだろう」
なるほど。オニキスの言うことには一理ある。
「戦うつもりがなくても、訓練は積んでおかなきゃいけなかった?」
「かもな。だが、それでもお前は子供を守り切った、俺のとっさの指示にもよく反応してくれた」
盾を張ったときのことを言われているんだとわかった。
あのとき、とっさに体が動いた。幼い頃、塔で受けていた訓練が瞬時に蘇ったのだ。
「……確かに」
訓練は大事だ。それが身にしみた。
「ってことで、だ。また同じような状況になる前に、備えておくべきだと思うわけだ、俺としちゃ」
「うん」
「場数を踏むのが一番だな。魔物に対して、何ができるのか、何が有効なのか、考えなくても動けるよう、徹底的に体で覚えるぞ」
「……ってことは」
討伐の仕事も、解禁になる、ということだろうか。
「おう。簡単な魔物からやるぞ。稽古だと思って、しっかりついてこいよ」




