19. 戦闘
「ほんとのとこ、なにか策はある?」
ルチルは率直に尋ねた。
ふう、とオニキスは息をつく。
「正直、相手が悪い、氷に炎じゃな……。とはいえ力量差ってのがあるから、今はこっちが上回ってる状況だが」
さすがに、トカゲの魔物一匹に圧し負けるようなドラゴンではない。
「俺が元の姿に戻れりゃひとひねりなんだがな」
ドラゴンが人間世界で姿を維持するには、特殊な力場から生命力を吸い上げることが必要だ、と教えられていた。
竜脈と呼ばれるような場所だ。かつての塔はその上に建っていた。
オニキスは塔を離れてから、一度も竜脈の上に帰っていない。オコジョの姿はそのためだった。
無理をすれば元の姿に戻れるという話ではあったが、どんな無理になるのか、聞いたことはない。
「盾はどれくらいもつ?」
「お前の精神力次第だが、夜までは堅いな。それまでに向こうさんが消耗してくれりゃ、御の字だが」
サラマンダーは激しく盾に体をぶつけている。あれなら、もしかしたら疲れ切ってくれるかもしれない。
「いざとなりゃ、飛んで逃げることも考えといてくれ」
やっぱりそうなるか。だが、一つ懸念点があった。
「うん。……でも、すぐそこに街道が」
「それなんだよなあ」
とにかく、相手が興奮しきっている今の状況では盾を解除するのは危険だ、とオニキスは言った。
長期戦を覚悟しなければならない。
「精神力次第だっつったろ。気持ちが強い方が勝ちだ。今のうちに水でも飲んどけ」
「うん」
そんな会話をして、小半時ほど経っただろうか。
オニキスが、はっと顔を上げた。
「あいつら、戻ってきちまったのか? いや、これは──」
がさり、と獣道から誰かが姿を現した。
「大丈夫か! 助けに──って、ルチル!?」
「エドさん!?」
鎧や剣を身につけたエドだった。
すぐ後ろからはサイも現れる。レジーナの姿も見えた。
「話は後です、魔物は──」
「サラマンダーだ!」
オニキスは声を張った。
「ありがてえ、トロールを倒したパーティーなら、勝ち目は大きいだろ!」
「あの力場は、ルチルが?」
広場に入ってきたエドが端的に状況を把握する。
「ああ。いいか、今からあれを解除して全員に盾を付与する。うまく使えよ。ルチル!」
「はい!」
ルチルは『銀の天秤』の皆を見、うなずき返されたのを確認してから力場を張り直す。
「防御の盾!!」
「おお」
「これは、なかなか」
ルチルを含む全員の前に、光る盾が現れる。
逆に、サラマンダーを捕らえていたドームは消え去っていた。
自由になったトカゲが地面を踏みしめる。
「弱点は舌だ! ブレスを吐く瞬間を狙ってくれ!」
「サイ!」
「ええ!」
オニキスが指示を飛ばし、エドが剣を抜きながら呼びかけ、サイが弓に矢をつがえた。
サラマンダーが大きく口を開ける。
ヒュンと空気を裂いて飛んだ矢が、カッと口の中に突き立った。
「ギャアァッ!!」
めちゃくちゃに炎が飛ぶ。エドがうまく盾であしらった。ルチルも自分のぶんの盾と、前に立って守ってくれたレジーナのおかげで無傷だ。
そのままエドは前に躍り出る。
「任せろ!」
剣を両手に持って、上段から首を叩き斬った。
「……ヒュウ。鮮やかなもんじゃねーか」
口笛を吹いたのはオニキスだ。ルチルは、力が抜けてへたり込んだ。
「ルチルちゃん、けがはない?」
レジーナに心配されるが、こくこくとうなずくことしかできない。
代わりにオニキスが返事した。
「俺もこいつも大丈夫だ。少しばかり気を張ってたから、疲れちまったようだがな」
ぺたぺたとオコジョに頬を柔らかく叩かれる。
「助かった、礼を言うぜ。だがお前ら、どうしてここに?」
「下の街道で、チャーリーって子に聞いてな、こっちは護衛の途中だったんだけど」
「皆を逃がして自分たちだけ残るなんて、無茶をしましたね」
「ま、勝算がないわけじゃなかったからな」
オニキスがうそぶいた。
レジーナがオニキスごとルチルを抱きしめる。
「無事でよかった。よくがんばったね」




