17. 危機
それから、順調に数週間が過ぎた。
ルチルは長石級の依頼をいくつもこなし、それなりの報酬を手にした。街の外へのおつかいや、様々な採集の仕事だ。チャーリーたちとも何度か一緒に組み、そのたびに冷凍技術は重宝された。
宿の小さな部屋には、いくつか物が増えた。丈夫な服に革靴、水を弾くフードつきの上着などだ。
まあ、それでも場所をとるほどではない。
オニキスの監督のもと、堅実に報酬の使い途を検討しているルチルだった。
*
その日の仕事も、薬草集めだった。もはや、慣れた仕事と言っても差し支えないかもしれない。
同行者はチャーリー、キティ、オットーと、他に駆け出しの冒険者がいた。ルチルが組むのは初めてだが、彼もこの依頼は何度かこなしているという。
「よろしくな、兄ちゃん」
「こちらこそ」
「よろしくお願いします」
そんなあいさつを交わして現地に向かう。門を出る前、いつものようにパン屋でいちばん安いパンとチーズを買った。
街道から山に入ろうという、まさにその時。オニキスがぴくりとひげを震わせた。
「こりゃ……」
「どうかした?」
オニキスの緊張を感じる。数年前、旅をしていたときにも何度かこんなことがあった。
「嫌な気配がする」
「気配……どんな?」
尋ねながら、ルチルにもなんとなくの予想はついていた。
二人が足を止めたのを見て、チャーリーと子供たちが寄ってくる。
「どうした?」
「オニキスがね」
「今日は、よした方がいいかもしれん。これは……魔物の気配だ」
「…………」
やっぱり。
チャーリーは一瞬、言葉に詰まったようにルチルの顔を見た。
やがて、おそるおそる。
「……動物って、人間よりも敏感だっていうよな?」
「わかんないけど、私はオニキスの言うとおりにしたほうがいいと思う」
彼らには明かせないが、これはドラゴンの第六感だ。
それ以上に、ルチルにとっては、何度も助けられた感覚でもある。
「おう……」
チャーリーは辺りを見回した。そして、はっとする。
「あれ、あの兄ちゃんは?」
「森に入ってっちゃったよ」
子供たちが森の中を指差した。
「げっ」
ルチルの背もひやっとした。置き去りにして行くわけにはいかないだろう。
「……しかたねー、見つけたらすぐに戻るぞ。お前ら、俺から離れるなよ」
「ラジャー!!」
一行は慎重に、しかし急いで山に入っていく。獣道を進むと、すぐに開けた場所に出る。
そこで、こちらを振り返って待っている冒険者の男がいた。
「ああ、皆さん遅かったですね──」
「よ、よかったぁ」
何も知らずきょとんとしている男に力が抜けそうになったが、ゆっくりしている場合ではない。
「今すぐここを離れないと」
「え、どうしたんです?」
「ルチルの相棒が、危険だって」
そう言いながらチャーリーは彼の腕を来た方に引っ張った。
「危険?」
「待て、何か焦げ臭くないか」
「え?」
オニキスが注意を促したその時。
ゴオッ、と音がした。
「ルチル!!」
「防御の盾!」
鋭い声で呼ばれ、とっさにぎゅっと目を閉じて、わけもわからず防御の態勢をとった。
その瞬間、辺りを炎が駆け抜ける。
「わあっ!?」
「きゃあ!?」
子供たちの悲鳴が飛ぶ。
瞑ってしまった両目を、おそるおそる開く。
真っ赤な魔物が、目の前にいた。




