16. 饗応
「何食べたい? ここでいい?」
あれよあれよという間にルチルはテーブルについていた。横にレジーナ、向かいにエドとサイが座って口々に希望を聞いてくる。
「とりあえず芋は食うよな? 揚げたやつ」
「肉と魚、どっちが好き?」
「えっと、魚……しいていえば」
「今はサケのムニエルがおいしいですよ」
「あ、はい、じゃあそれで」
「おっけー。お酒はいける?」
「まだだめだ」
オニキスも保護者らしく口を出した。
「だめかー」
「じゃあ、炭酸水だな。オニキスは?」
「俺はうわばみだぞ」
「じゃああたしたちと同じでいいかな?」
レジーナが給仕に全員分の注文をし、まずは飲み物が運ばれてくる。
ルチルは炭酸水、他の皆は麦酒だ。小さめのジョッキだが、ちゃんとオニキスの分もある。
「かんぱーい!」
「あっ、かんぱーい」
木のジョッキを打ち合わせる。
液体にはぷちぷちと泡が浮いては跳ねていた。恐る恐る口をつけてみる。
「…………。…………!?」
「あはは、炭酸水初めて?」
「…………はい」
「レモンちょっと入れるとおいしいよ」
レジーナに教えてもらい、なるほどついてきたレモンの切ったのはそうやって使うのかと知る。
「あまり一度には入れないほうがいいですよ。少しずつ味見しながら」
サイにもそう教えられて、慎重にレモンを絞って垂らす。
他の皆もエールに絞ったり絞らなかったりしていた。
「ふわあ……」
味見すると、これはまたさわやかな香気が口から鼻に広がって、経験したことのない感覚だ。
横ではオニキスがエールのジョッキを抱えながら、いつぶりの酒だっけなあ……などと感慨深げにしていた。
確かに、ルチルは彼が酒を飲んでいるのを見るのはこれが初めてだ。
ちびちび飲んでいるうちに料理が来た。またもやあれこれと世話を焼かれる。
「ポテトにおすすめなのはこの塩だな」
「料理と一緒に食べるのもおいしいですよ。サケによく合います」
「こっちのチキンも味見してみる?」
「いいんですか?」
「うん、切り分けるね」
料理を口にしながら、仕事の話になった。
ルチルが薬草採取の仕事の成果をざっくり話すと、なぜかエドが得意そうにする。
「な、俺が言ったとおりだったろ? 氷の技も判断力もじゅうぶん一人前だって」
「氷の幻獣のスキルですか。他には、どんなことができるんですか?」
興味深げにしているのはサイである。オニキスがさらりと答えた。
「まじない程度に、獣よけをしたりとかだな」
実際に獣が逃げていくのは竜の気配のせいなのだが、物は言いようとはこのことだ。ルチルも乗っかった。
「旅をしていた時は、よく助けられました」
「そうなんだ。あ、出身はどこだか聞いてもいいのかな」
「国境のむこうだが、よくはわからん。こいつは親がなくてな、親代わりのじいさんに引きとられたんだ」
おお。塔にいて、アイザック師や他の研究者に指導されていたことも、こういうふうに表現してしまえばいいのか。
「ま、よくある話だな。で、俺がそのじいさんと契約してたってわけ」
「おじいさんが亡くなったので、オニキスと二人でこの街に来たんです」
「なるほど、そうだったのね」
時系列的にはこんな感じでだいたい合っているだろう。
三人は納得したらしく、ふむふむとうなずいている。
逆に質問してみよう。
「みなさんは、ずっとこの辺りで過ごしてたんですか?」
「私とエドはそう。この近くの農村の生まれだよ。サイは……」
「王都で別のパーティーに属していたんですが、たまたまフェアカヴィルに立ち寄ることがありまして」
「そのパーティーから、俺が引き抜いたんだ」
ほうほう。
「今日は、どんな仕事をされてきたんですか?」
「トロールの討伐だな、棲み処ごとどうにかしてくれって依頼で」
「ずいぶんな相手じゃねえか」
オニキスが目を丸くしている。
「そうなの?」
「ああ。こないだ教えたゴブリンより上の魔物でな。あの手のやつらは妖魔とも呼ばれるんだが、多少の知能があって集団生活をする部類なんだ。魔法を使う個体もいる。人里近くに棲みついた場合は、人間を取って食うから脅威になる」
「詳しいんだな」
エドに感心された。
「まあな、伊達に長く生きちゃいねえ。じいさんも物知りだったしな」
「三人だけで退治したんですか?」
「ああ、うちはサイがそういった魔物の痕跡を見つけるのが得意なんだ。あとは罠を張って、出てきたところを俺が叩く。多少の怪我なら姉貴がその場で治せるし」
「へえ、バランスがいいんですね」
「そ。だからサイを引きぬいたわけ」
エドは嬉しそうだ。サイも満更ではない顔をしてサケをつついている。
レジーナが言い添えた。
「パーティー組むと、請けられる仕事の幅も広がるし、いいことづくめだよ。ルチルちゃんも考えてみるといいかもね」
なるほど。……でも、オニキスの正体を隠しながら組む相手を探すのは、ちょっと難しいかもしれないなあ。
他にもいろいろと冒険生活のアドバイスを受けながら、楽しい食事となった。




