14. 採取
「よし、この辺だ」
街道からそれて、少し山に入ったあたりでチャーリーは足を止めた。
斜面は林になっている。
外から見るよりも案外明るい。木々の間から日が差しているのだ。
あ、下生えの隙間にきのこ。
「薬草のリストはもらったよな?」
「あ、うん」
ルチルは冒険者ギルドで渡された紙を広げる。薬草の名前と簡単な見分け方がリストアップされていた。
「わかる?」
キティに首をかしげられ、うん、とうなずく。
「ほとんどは、前の仕事で触ったことがあるよ。山に生えてるのを見るのは初めてだけど」
「おっ、まじか。んじゃいけそうだな」
請け合ったチャーリーが子供たちに指示を出す。
「それじゃ、オットー、ルチルを見ててやってくれ。キティとメグは俺と一緒な。全員、お互いが見える範囲から離れないように!」
「りょうかーい!」
「ん!」
「はあーい」
元気のよい返事が響いて、一行は二手に分かれた。
オットーはさっそく、ルチルの持ったリストをのぞき込んでアドバイスしてくれる。
「えっとな、このリストの上の方が、見つけやすいけど安いやつ。下のほうが、珍しくて高いやつ」
確かに、薬屋で扱っていたときもそんな感じの値付けだった気がする。あれは入手難易度だったのか。
「お、本当にすぐ見つかるな。そこの茂み、そうだろ」
「あっ!?」
オニキスがしれっと言い出して、二人で振り返ると、本当に言ったとおり、リストの一番上の薬草がこんもり生えていた。
「オコジョのおっちゃん、やるじゃん!」
「あと、その赤い実もあっちの枝に生ってるぞ」
「ほんとだ!? くっそ、届かねえ!」
「落としてきてやろうか」
「おおお!! そんなこともできるのか!? すげええ!」
少年の心からの称賛を受けて、オニキスはちょっと得意げに木の幹をのぼっていった。
「そんなにほめるんじゃねえや、照れるぜ」
……負けていられない。ルチルも気合いを入れ直して、あたりを探索し始めた。
「そろそろ昼だな」
「え、もうそんな時間?」
ルチルは地面に落としていた視線を上げて、空を仰ぐ。
確かに、木の葉の向こうに見える太陽は、天頂近くまで上がっている気がする。
そばにいたオットーも同じように空を見上げて、それから提案した。
「昼飯にしようぜ、チャーリーのところに行こう」
「わかった」
チャーリーたちは少し斜面を下ったあたりにいるようだ。
歩き出すと、手に持った納品袋がそれなりにずっしり重い。
「結構たまったね」
「初仕事にしては、上出来だと思うよ」
袋の中身は半分ほどだろうか。
オットーがしたり顔でうなずいた。
チャーリーたちと合流すると、さらなる移動を告げられる。
「いつも昼に使ってる場所があるんだ、小さな谷があって小川になってるんだけど、そこのでっかい岩で……」
「休憩にはよさそうだね」
「そうなの!」
キティが先に立って歩き出す。
その場所に出ると、少し開けて日の光が降り注いでいた。
岩に腰掛け、水を飲んでパンを頬張る。
少し固く、酸味を感じるパンだった。チーズとの相性はなかなかだ。
「これ、おいしいね」
「でしょ!」
「オニキスの食べ物もパンでよかったのか?」
「うん、いつも私と同じもの食べてるんだ」
「なかなかいけるぜ。酒がほしいな」
……その感想まではよくわからないが。
一行はしばらく体を休め、男子陣は川の水で顔や足を洗ったりしていた。
半時ほど経って、さて、午後も働くか。と立ち上がったが、ところでルチルにはさっきから気になっているものがある。
「ね、そこの水辺に生えてるやつ、高い薬草じゃない?」
リストを広げて確認してみる。下のほうに載っていたはずだ。
「うん、やっぱり」
「あー……これな……」
しかしチャーリーは苦い顔だ。
「確かに高いんだが、採るとすぐに傷んじゃうやつなんだ」
「え、そうなの?」
「うん。すぐに凍らせるとか、乾燥させるとかの手間がいる。魔法が使えるやつ向けだな、残念だけど……」
凍らせる。
「いける?」
「いけそうだな」
ルチルはオニキスと目を見交わした。
そして、しゃがみ込むと話題の薬草を引っこ抜き、
「──氷の息吹」
ピキン。
「えっ」
「どうだろ」
驚くチャーリーに、ルチルは手の中のものを見せた。
かちこちに凍らされた薬草だ。
「夜ぐらいまでは凍ってるようにしてみたんだけど」
「………………、」
子供たちは目を丸くし、それからわっと歓声を上げた。
「すっげーーーーーー!?」
「まじか!!?」
「ルチル魔法使えたの!?」
「ほんとに凍ってる!!」
落ち着くのにはしばらくかかった。
……午後は、これまで採取を見送っていた高価な薬草も集めることができそうだ。




