12. 初仕事
ギルドの売店で、当面必要なものを買い揃える。
無料で利用できるという宿も確認させてもらった。
今住んでいる長屋とあまり変わらない間取りで、これなら不便なく住めそうだ。
「まあ本当に最低限だからねえ、物持ちになったら立派な収納のある部屋に住み替えをおすすめするけどね」
とは女将さんの言葉だ。
物持ち、ひとまずルチルには縁のない言葉である。
長屋に帰ると、ジェイコブおじさんがちょうど庭に出ていた。
「お、おかえり、どうだった?」
「ただいま。入会してきました!」
元気よく返事して、共用の水場で手を洗って喉を潤す。
おじさんは破顔した。
「そうか! ルチルちゃんたちならうまくやっていけると思うんだ」
「はい。紹介状、ありがとうございました」
「ま、なんとかやってみるわ」
「ああ。こっちも落ち着いたら連絡先を教えるから、何かあったら言ってくれよ」
「はい」
今日はいろんなところでこのせりふを聞いている気がする。ありがたいなあ、とルチルはしみじみ感謝した。
*
数日後。
ルチルは他の住人と共に、長屋をあとにした。
「それじゃみなさん、お元気で!」
「ルチルちゃんもね、頑張るんだよ!」
「時々顔を見せてくれよ」
この街に来てからずっと暮らしていた場所だ、さみしくないと言えば嘘になる。
だが、今のルチルには、あまり感傷に浸る暇はなかった。新しい生活への緊張感のほうが大きくて、それどころではないのだ。
まずは数少ない着替えなどの荷物を宿に運び入れ、拠点とする。
それから、ギルドに向かった。
「よしっ」
気合を入れて、教えてもらった掲示板の、初心者向けの張り紙をチェックする。
よく見ると、条件のところに『長石級』『琥珀級』などと書いてあった。
「なるほど、こういうところで使われてる等級なんだね」
「みてえだな。内容はどうだ?」
「ええと……」
一つ目。薬草集め。
二つ目、護衛。
三つ目、猫探し。
「猫探し。……こんなのもあるんだ」
「子供の遣いじゃねえか」
オニキスは拍子抜けだというように鼻を掻いていた。
「で……どれにしよう?」
安全度から言ったら、三つ目のような気がするのだが。
「オニキスって、小動物に逃げられるんだよね」
どうも、この姿でもドラゴンの存在感みたいなものが動物には感じ取れるみたいなのだ。
「そうだな……」
「じゃあ、これはなしだね」
「ってこた、薬草集めか、護衛か」
「その二つなら……薬草かな、馴染みのある分野だし」
「おう、いいんじゃねえか」
改めて薬草集めの依頼を確認してみる。
拘束時間は一日。
ルイバス山でリストにある薬草を集めること。
基本報酬は銀貨五枚、成果給で上乗せあり。
「リストは受付でもらえるみたいだな」
「うん。ルイバス山の場所も聞かないと」
さっそく空いている窓口に行って、薬草集めの依頼を受けたいと伝えてみた。
「おはようございます。お仕事は初めてですか?」
「はい、それで、場所や気をつけるべきことがわからないので……」
「それならちょうどよかった。その仕事に慣れている人がいますから、同行されるのをおすすめしますよ」
なんと、それは好都合。
「チャーリーくん、ちょっといいですか?」
受付の係員が声をかけたのは、ルチルより少し年下に見える少年だ。
何人かの子供を連れている。
「今日もルイバス山の依頼でしょう? 冒険が初めてっていう人がいるから、一緒に連れていってあげてほしいんだ。ギルドのほうで報酬ちょっと色を付けるから」
「え、まじ? やるやる」
チャーリーと呼ばれた少年は窓口に歩いてくると、ルチルに片手を差し出した。
「おれ、チャーリー。ルイバス山にはこいつらと一緒によく行ってるから、安心していいぜ。あんたは?」
「私はルチル。よろしくね。こっちはオニキス」
「おう、頼むぜ」
「おっ、喋った。幻獣か?」
「まあな」
ルチルは握手に応じる。
こうして最初の冒険は始まるようだ。




