10. 鑑定
仕事の内容に、住宅補助。
これまで聞いていたものが、より具体的になった。
「どうだろう」
ルチルは肩のオニキスを振り返る。
オコジョは思案気に尻尾を揺らした。
「……お前は、どうなんだ。手ごたえは感じたのか?」
「それは、まあ。簡単なのならできそうな気がする。討伐っていうのはわからないけど、護衛なら危険度次第かなあ」
「ふむ」
オニキスはひとつうなずくと、肩の上で仁王立ちして腕組みした。
「そうだな。俺からは二つ条件がある」
「条件?」
「ああ。まず一つ目。仕事を受けるときは、必ず俺にも前もって確認させること」
「それは、もちろん」
元からそのつもりだ。オニキスは重々しく顎を引いた。
「よろしい。もう一つ。当面は、討伐の仕事は禁止だ」
「はい。……うん?」
当面?
「だいたいどのぐらいの期間?」
「わからん。冒険者の仕事に十分慣れるまで、と言いたいが、それ以外の仕事で食っていけるんならそれに越したことはないからな」
ルチルは、横で待ってくれている案内係のお姉さんを振り返った。
「そういうのって、できるんですか?」
「ほとんどいらっしゃいませんが、そういった方は皆無ではありませんよ。ですが……」
「何か不都合があるんですか?」
お姉さんは少し困ったように小首をかしげ、慎重に言葉を選んでくれているようだ。
「……冒険者に出された依頼である以上、どんな仕事でも危険性は除外できないものですから。安全を求めるなら、城壁の中の仕事のほうがよいでしょうし、逆に、そこを吞むのであれば、討伐依頼もこなされていったほうが効率的ではあります」
「それは、そうですよね……」
「ですが、危険度の低い依頼から慣れていく、という方針自体は私も賛成です。装備をゆっくり、吟味して揃えることもできますしね」
「なるほど」
「ふむ。専門家の意見、助かる」
オニキスは案内係に向かって片手をあげて礼をした。
うん。ということは、だ。
「それじゃあ」
「ああ。保護者としては、これ以上注文つけるところはねぇぜ」
「やった!」
喜びの声を上げたルチルに、お姉さんもうれしそうだ。
「おめでとうございます。それでは、カウンターのほうで入会の手続きをお進めしますね」
「はい! よろしくお願いします」
*
窓口で出してもらったギルド入会の書類を書き、おじさんからもらった紹介状を渡す。
「ああ、ジェイコブさんのご紹介なんですね」
「お知り合いなんですか?」
「結構な人数をご紹介いただいているんですよ」
「へぇ……」
そんな話をしながら、しっかり、仕事の希望欄に討伐はしないと書き込んだ。
オニキスの名前も、同行者として記す。
「あとは、戦闘能力鑑定がございます」
「戦うのか?」
「昔はそうだったんですが、今は便利なものがありまして。別室で、魔道具による調査を受けていただいてますね」
それでは、と奥の小部屋に案内される。
窓がなく、日の射し込まない暗がりだったが、案内係が何か操作すると魔法の灯りがあたりを照らした。
「おお……」
視界が明るくなって現れたものを見て、声が出る。
中央の台座に、透明な水晶球が置かれていた。
「これですか?」
「はい。手をかざしていただくと鑑定の魔法が発動しますよ」
近くの机にも石板のようなものがあり、案内係がそれを手に取った。
「どんな情報がわかるんだ?」
「そうですね、身体能力、魔法適性、特殊な技能や契約などを読み取ります。それを『職業』としてまとめ、記録します」
「しょくぎょう?」
冒険者、というのが職業なのではないのか。
「戦い方のパターンのようなものですね。パーティーを組む際に、参考にしていただきます」
「あー、前を張るとか後ろから魔法でちくちくやるとか、そういったやつだろ」
オコジョはしたり顔だ。
「はい。ルチルさんは、オニキスさんと契約をされているのですか?」
「そんな感じです」
「でしたら、調教師、使役者などが出されると思いますよ」
思わず、二人で顔を見合わせてしまう。
「……公開されるのか?」
「どの部分を公開情報とされるのかは、お選びいただきます。それ以外の情報はギルド内で厳重に管理いたします」
「秘密にもできるんだ?」
「はい。他国の話ですが、お忍びの王族方が鑑定を受けると、先祖代々の特別な契約が職業に表れてしまうとかで……」
「なるほど、そりゃ一大事だ」
お忍びがお忍びにならない。
「それじゃ、お願いします。片手で?」
「はい、どうぞ」
ルチルは、少し緊張しながら水晶玉に手を伸ばした。
てのひらが水晶玉に触れた瞬間、
──キンッ。
小さく張り詰めた音がして、部屋の温度がぐっと下がった。
ちらちらと舞うこれは、
「……雪……」
「…………あー」
やっちまった、という顔をしているのはオニキスである。
「……ええと」
案内係は石板に目を落としたまま唖然としている。
横からのぞかせてもらおう。
「……ちょっと失礼しますね」
石板に刻まれていた言葉は、こうだ。
──『雪竜の代行者』。




