表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巡る風  作者: Tachun
7/8

ep.7 湿舌

朝、いつものように靴を履き替える。


騒がしい声がする。


「ジャンケン勝っただろー。今日の昼奢りな!」


「そんなん聞いてねぇよ!」


...真田と斎藤だ。


いつも通りな彼らに混ざって、教室まで行く。


教室に入ると、巡の席に怜が座っている。


怜がこちらを見た。

怜の表情が、

一瞬だけ凍りついたように固まる。


「おはよう、怜」


そう声をかけるが、いつものような返事はない。


「...怜?」


肩を叩きながら声をかける。


怜はハッとして答える。


「...あ。おはよう、みんな」


「なんだ〜、俺らのこと忘れたかと思ったわ」


斎藤が張り詰めていた空気を緩める。


怜はいつもの笑顔で接していたが、

その笑顔が作られてたものであると気づいたのは

巡だけだっただろう。


教室にいつもの空気が戻る。


担任が入ってきて、

HRが始まろうとしていた。


急に怜に袖を引っ張られる。

指先が白くなるほど、

強く。


「放課後、屋上」


無機質にそれだけ伝えたあと、

つかんでいた指は離された。


---


屋上に着くと、

怜が風にその髪を靡かせて待っていた。


「で、どうした」


怜を探るように問う。


「朝、楽しそうにしてた」


意味が分からない。

いつも通りに接してたはずだ。


「巡、前言ったよね。ボクだけを見てくれるって、恋人気分でいいって」


肯定はしない。

ただ、否定もできなかった。


「大丈夫、怜が1番だから」


言ってしまった。

こう言えば、こんな嫉妬から抜けられると思った。


怜の瞳から、

ふっと熱が抜けた。


「...いちばん。...ボクが、1番。...えへへ。なんだかおなか空いてきちゃった、帰ろっか」


先程までの険しさは微塵もなく、

ただ、蕩けるような笑みがあった。


巡はホッとして、怜の後を追った。


---


翌日

巡が席に着き、授業の準備を始める。


ふと、手元のペンケースに手をやる。

あるはずの四角い感触がない。


怜の仕業か。

そう思い怜の方に目を向ける。


目が合う。

怜はイタズラが成功した子供のように口角を上げ、

その消しゴムを自らの胸ポケットにしまう。


イタズラは、

時間を追うごとにエスカレートしていく。


怜の過剰なまでの束縛と独占欲は、

少しずつ巡の生活に影を落とし始めた。


怜は奇妙な高揚感を感じていた。

自分が、巡の思考を支配しているという感覚。


休み時間になり、

教室がざわつき始める。


「昨日借りたノート返すわ」


真田からノートを受け取る。


それと同時に、

焼き切れんばかりの視線も感じる。


「ありがと。えーと、、うまく言えないけど、夜道には気をつけろよ」


巡自身、

何を警戒してそんな言葉が出たのか分からなかった。


「なんじゃそりゃ」


真田は少し首をかしげつつも、

席に戻る。


息を整えるまもなく、

怜が隣に来る。


「夜道に気をつけろ?それってボクから真田を遠ざけようとしてくれてるの?それとも、ボクを怒らせないための、嘘?」


怜の瞳の奥で、

狂気と期待が混ざり合って火花を散らす。


「1番がいるなら2番もいていいだろ。怜だけとしか関われないなら私生活終了だって」


とてつもない重圧のなかで、

苦し紛れに言う。


「そっか。じゃあ、明日、巡の机の中にイタズラしておくから。ボクが巡の1番の理解者だって思い知らせてあげる」


ジメジメとした不快な風が流れる。


怜は

巡の瞳の奥にある何かを

ゆっくり舐め取るみたいに見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ