ep.6 黒南風
文化祭、
怒涛の2日間を終えた。
途中で在庫が切れたりはしたが、
全力買いに行ったりシフト調整をしたり、
上手いことできた。
喫茶店の売り上げはそこそこ。
校内5位だった。
ほぼ3年生が寡占する中でこれは良い結果であった。
文化祭の片付けが終わる頃には、
空はすっかり暗くなっていた。
教室の装飾はほとんど外され、
騒がしかった空間も、
今は妙に静かだ。
「つっかれたぁ……」
斎藤が机へ突っ伏す。
「お前途中サボってただろ」
「バレた?」
真田が呆れたように笑った。
そんな他愛もない会話を聞きながら、
巡は窓の外を見る。
校庭にはまだ文化祭の余韻が残っていた。
遠くで誰かが写真を撮っている。
笑い声。
思えば、
6月の文化祭は準備期間が短くて大変だった。
そう思い、教室を見回す。
全部が、
終わったあとの空気だった。
「じゃ、俺ら先帰るわ」
真田が鞄を肩へかける。
「巡も怜も遅くなんなよー」
「お前保護者かよ」
笑いながら二人は去っていった。
教室に残るのは、
巡と怜だけ。
静かだった。
さっきまでの喧騒が嘘みたいに。
「……帰ろっか」
怜が小さく言う。
巡は頷いた。
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夜の住宅街。
文化祭帰りの生徒たちが、
まだちらほら歩いている。
怜は今日ずっと機嫌がよかった。
隣を歩く距離も近いし、
やたらと巡へ話しかけてくる。
「今日さ」
「ん?」
「楽しかったね」
「まぁな」
「特に準備室」
巡の足が止まりかける。
「……お前、
あれわざとだろ」
「何が?」
怜はとぼけた顔をする。
「好き、とか」
言った瞬間、
怜が吹き出した。
「巡、
あの時めちゃくちゃ固まってた」
「うるさい」
「かわいかった」
にやにや笑う怜。
その顔は、
昔みたいに悪戯っぽかった。
巡は少しだけ肩の力を抜く。
こういう怜なら、
普通でいられる気がした。
いや、
こういう怜と一緒にいたい。
「でも」
怜がふと静かになる。
「半分本気」
巡の心臓が跳ねる。
風が吹く。
冷たい秋風。
怜は前を向いたまま続ける。
「巡といると、
なんか安心するんだよね」
「……」
「他の人といる時と違う」
その声は穏やかだった。
その声の中に、
含みがあるようには感じなかった。
ただ、
好きな人へ向けるみたいな声。
だからこそ、
巡は返事に困った。
「お前、
距離感バグってんだよ」
誤魔化すように。
否、
逃げるように言う
すると怜は少し笑った。
「恋人っぽい?」
「……自分で言うな」
「嫌?」
その問いだけが、
妙に真っ直ぐだった。
巡は答えられない。
嫌なら、
離れればいい。
なのに、
それができない。
怜はそんな巡を見て、
小さく笑う。
「巡って優しいよね」
「普通だろ」
「違うよ」
街灯の光が、
怜の横顔を照らす。
「優しいから、
ボクを突き放せない」
その言葉に、
胸の奥がざわつく。
まるで、
全部見透かされているみたいだった。
「……怜」
名前を呼ぶ。
怜は嬉しそうにこちらを見る。
その顔が、
一瞬だけ大人びて見えた。
「ねぇ巡」
怜がそっと袖を掴む。
「今日だけ、
恋人みたいでもいい?」
冗談っぽい口調。
でも、
掴む指先は少し震えていた。
巡はしばらく黙っていた。
夜風が吹く。
遠くで電車の音。
静かな住宅街。
「……今日だけな」
やっとの思いでそう返す。
心の底から言っているわけではない。
だが、
何か不思議な気持ちになって言った。
すると怜は、
心底嬉しそうに笑った。
「うん」
その笑顔を見た瞬間。
巡の胸の奥で、
何かが静かに沈んでいった。




