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巡る風  作者: Tachun
4/8

ep.4 疾風

文化祭準備期間というものは、

普段の教室を少しだけおかしくする。


机は端へ寄せられ、

床にはダンボールや絵の具が散乱し、

いつもは寝ているやつまで妙に騒がしい。


「そこテープ足りてねぇって!」


「誰かハサミ取ってー!」


教室中がそんな声で溢れていた。


巡は脚立に乗りながら、

天井へ紙飾りを貼っていく。


「おーい巡、

 曲がってる!」


下から真田が叫ぶ。


「マジ?」


「右!もっと右!違う左!」


「どっちだよ!」


教室に笑い声が広がる。


その時。


ぐい、と制服の裾を引っ張られた。


見下ろす。


怜だった。


「危ないから降りて」


「いやこれ貼んないと終わんねぇ」


「落ちたら?」


「落ちねぇよ」


「でも嫌」


真顔だった。

巡は少し困ったように笑う。


「心配しすぎ」


「する」


即答。


その言い方が妙に真っ直ぐで、

少しだけ空気が止まる。


「はいはい、

 彼氏面やめろー」


斎藤が茶化した瞬間、

怜がものすごい勢いで振り返った。


「違うし!」


「反応早っ」


また笑い声。


怜は顔を赤くしながら、

不満そうに巡の脚立を支えていた。


---


放課後。


残ったメンバーで買い出しに行くことになり、

四人は駅前を歩いていた。


「予算足りんのかな」


「まぁ最悪なんとかなるだろ」


「その“なんとかなる”で毎回終わるよね」


斎藤のツッコミに、

真田が笑う。


「確かに、便利な言葉だな」


その少し後ろ。

巡と怜は並んで歩いていた。


「……ねぇ」


怜が小さく言う。


「ん?」


「文化祭終わったらさ」


怜は前を向いたまま、

少しだけ笑った。


「なんか、

 終わっちゃいそうだね」


「何が」


「今の感じ」


夕方の風が吹く。


どこか寂しい匂いのする風だった。


巡は少し考える。


「別に終わんねぇだろ」


「そうかな」


「卒業したって、

 遊ぶやつは遊ぶし」


怜は黙る。


その横顔が、

少しだけ大人びて見えた。


「……そっか」


小さく呟く。


その声には、

安心と、

どうしようもない不安が混ざっていた。


---


文化祭当日。


教室は大騒ぎだった。


「おい接客行け接客!」

「写真撮るな働け!」


喫茶店仕様になった教室を、

生徒たちが慌ただしく走り回る。


「巡〜」


怜が制服の袖を引っ張る。


「ネクタイ曲がってる」


「朝ちゃんとやったぞ」


「動いてるうちにズレたんでしょ」


怜はそう言いながら、巡のネクタイへ手を伸ばした。


近い。


ふわりとシャンプーの匂いがする。


「……お前、

 距離感近いって」


「今さら?」


怜が笑う。


その瞬間。


教室の外から、

女子たちの声が聞こえた。


「あ、巡いた」

「写真撮っていい?」


怜の手が止まる。


空気が、

少し冷えた気がした。


「いいじゃん撮ってあげれば」


真田が軽く言う。


けれど。


怜は笑っていなかった。


その目だけが、

静かに女子たちを見ている。


ひどく冷たい目だった。


「……怜?」

巡が呼ぶと、

怜ははっとしたように笑った。


「ん? なに?」


いつもの声。


いつもの顔。


でも。


ほんの一瞬だけ。


教室に、

あの冷たい風が吹いた気がした。

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