ep.3 金風
日曜日の昼。
駅前のファミレスは、
学生と家族連れで騒がしかった。
「だからそれ絶対お前だって!」
「違うって言ってんだろ」
「いや巡しかいないじゃんそんなアホなことするの」
向かい側で斎藤が腹を抱えて笑っている。
真田もドリンクバーのコップを片手に、
「でもちょっと想像できる」と頷いていた。
「お前ら失礼すぎるだろ」
巡が呆れながらポテトをつまむ。
その隣で、
怜が楽しそうに笑った。
「でも巡、
たまに変なとこ抜けてるし」
「怜まで言う?」
「事実だもん」
にやにやしながら、
怜がストローを咥える。
窓際の席。
外では春の陽射しが道路を照らしていた。
どこにでもある休日。
どこにでもいる高校生四人。
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「そういやさ」
真田が急に思い出したように言う。
「文化祭の出し物どうする?」
「あーそれあったな」
「来週決めんだっけ?」
斎藤が面倒そうに机へ突っ伏す。
「もう喫茶店でよくね」
「普通すぎ」
「お化け屋敷は?」
「お前絶対脅かす側やりたいだけだろ」
わいわいと話が続く。
巡はその空気をぼんやり眺めていた。
笑い声。
氷の溶ける音。
店内BGM。
全部が、
やけに心地いい。
「巡は?」
怜が覗き込んでくる。
「え?」
「何やりたい?」
「あー……」
少し考える。
考えてみたものの、全く思い浮かばない。
「普通に喫茶店でいいかも」
「つまんな」
「じゃあ怜案出せよ」
「やっぱり、メイド喫茶でしょ」
「お前がやりたいだけだろ」
真田たちが吹き出す。
「いや似合うだろ絶対」
「女子より可愛いしな」
「ちょ、うるさい!」
怜が顔を赤くする。
その反応がおかしくて、
また笑いが広がった。
巡もつられて笑う。
その瞬間だった。
怜が、
ほんの少しだけ目を細める。
嬉しそうに。
安心したみたいに。
その顔を見て、
巡の胸が妙にざわつく。
——あぁ。
こういう時間が、
続けばいいのに。
ふと、
そんなことを思った。
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ドリンクバーへ向かう途中。
「巡」
後ろから怜が小さく呼ぶ。
振り返ると、
怜がすぐ近くまで来ていた。
「なに」
「今日、
楽しい?」
「なんだよ、急だな」
「いいから」
巡は少し笑う。
「まぁ楽しいよ」
怜は一瞬、
息を止めたみたいな顔をした。
それから、
ふっと微笑む。
「そっか」
短い返事。
けれどその声は、
どこか安心したみたいだった。
だからなにさ、そう言おうとした。
その時。
店の自動ドアが開いて、
外の風が吹き込んできた。
冷たい風。
ほんの一瞬だけ、
怜の表情から笑顔が消える。
その目の奥に、
何か暗いものが揺れた気がした。
けれど。
「うわ寒っ」
真田の声で、
空気はすぐ元に戻る。
「誰だよ開けっぱなし!」
「店員さん困ってるって」
いつもの空気。
いつもの日常。
怜もまた、
何事もなかったように笑っていた。




