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巡る風  作者: Tachun
2/8

ep.2 空風

昼休みの屋上は、妙に静かだった。


フェンスの向こうで、春の空が白く霞んでいる。


巡は鉄の扉を閉めると、小さく息を吐いた。


「……で、大事な話って?」


屋上の端。


フェンスにもたれた怜が、ゆっくり振り返る。


風が吹いて、白っぽい髪が揺れた。


「ちゃんと来るんだ」


「来いって言ったのお前だろ」


「それでも」


怜は少し笑う。


けれど、いつもの馬鹿にするような笑い方ではなかった。


落ち着かない沈黙。


遠くで体育の笛の音が聞こえる。


怜は視線を逸らしたまま、小さく呟いた。


「……最近さ」


「ん?」


「真田と仲良すぎじゃない?」


「は?」


思わず変な声が出た。


怜はむっとした顔でこちらを見る。


「だから、その……なんか嫌なんだけど」


「なんだそれ」


「別に」


怜はすぐそっぽを向く。


耳だけ赤い。


その顔を見た瞬間、巡は妙に面白くなってしまった。


「あー、嫉妬?」


「ちがっ……!」


怜が勢いよく振り返る。


けれど言葉が続かない。


その反応が、答えみたいなものだった。


少し、ほんの少しだけからかってやるつもりだった。


友達が奪われるのが嫌なのだろう、それぐらい位に思った。


巡は数歩近づく。


「怜」


「……なに」


「俺が他のやつと話してるの、そんな嫌?」


怜の喉が小さく動いた。


フェンスを掴む指先に力が入る。


「……嫌、だよ」


消えそうな声。


その瞬間だった。


胸の奥で、何かがひどく満たされた。


誰かにこんなふうに求められることなんて、今までなかった。


だから巡は、

少しだけ悪い笑みを浮かべた。


「じゃあ怜だけ見てれば満足?」


怜の呼吸が止まる。


風が吹いた。


長い髪が揺れる。


怜はしばらく何も言えなかった。


やがて、逃げるみたいに顔を伏せる。


「……ずるい」


「何が」


「そういうこと平気で言うの」


震える声だった。


その声を聞いて、

巡は初めて理解する。


あぁ、こいつ。


本気なんだ。


---


それからだった。


怜が、前よりずっと近くなったのは。


朝、教室に来れば隣の席に座っている。


帰り道も当然みたいについてくる。


購買へ行けば腕を引っ張られるし、

真田たちと話していれば、

いつの間にか怜が間に入っている。


「お前さぁ、最近ほんと巡好きだな」


ある日、斎藤が笑いながら言った。


「は!? 別に!」


「いや顔真っ赤じゃん」


「うるさい!」


教室に笑い声が広がる。


その中で、

怜だけが一瞬こちらを見た。


その目は、

冗談みたいな空気の中なのに、

妙に真剣だった。


---


放課後。


昇降口で靴を履き替えていると、

真田が隣にしゃがみこんだ。


「最近どうなん、怜と」


「どうって?」


「いや、付き合ってんのかなって」


「違うだろ」


「ふーん?」


真田がにやつく。


その時だった。


背後から、

妙な視線を感じた。


振り返る。


人混みの向こう。


怜が立っていた。


笑っていない。


ただじっと、

こちらを見ていた。


目だけが、

異様に冷たかった。


「……怜?」


声をかけた瞬間、

怜ははっとしたように笑った。


「なにしてんのー?」


明るい声。


けれど、

何かがおかしかった。


巡の胸の奥に、

小さな違和感が残る。


それが、

壊れ始める前触れだと知るには、

まだ少しだけ時間が必要だった。

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