表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巡る風  作者: Tachun
1/8

ep.1 陰風

四月の風は、まだ少し冷たい。


窓際の席で頬杖をつきながら、俺――巡はぼんやりと校庭を眺めていた。グラウンドでは運動部が朝練をしていて、金属バットの乾いた音が、やけに遠く聞こえる。


「おーい、聞いてる?」


頭に軽い衝撃。


振り返ると、教科書を丸めた怜が、呆れたように俺を見下ろしていた。


「……何」


「何、じゃないし。プリント回ってきてんだけど?」


机の上を見ると、ぐしゃぐしゃになった紙束が置かれている。いつの間に。


「ありがと」


「感謝が軽いんだよなぁ、お前」


怜はふん、と鼻を鳴らしながら俺の前の席に腰掛けた。


肩まで伸びた淡い髪が揺れる。ぱっと見れば女子にしか見えないくせに、口を開けばこんな調子だ。


「てか巡さ、今日寝癖やばいよ」


「うるさ」


「ほら」


怜の指先が、俺の髪を弄る。


その距離の近さに少しだけ眉をひそめると、怜は面白そうに笑った。


「なにその顔。照れてる?」


「照れてない」


「へぇー?」


にやにやと顔を覗き込まれる。


本当に面倒くさい。


けれど、振り払うほど嫌でもなかった。


「朝から元気だな、お前ら」


後ろから真田が声をかけてくる。


「聞いてよ真田〜、巡が冷たい」


「お前が絡みすぎなんだろ」


「えー」


怜はわざとらしく肩を落としたあと、ちらりと俺を見る。


その視線だけが、少し妙に感じた。


まるで、俺が誰と話しているかを確認するみたいな目だった。


「……何」


「別に?」


怜はすぐ笑った。


いつもの、悪戯っぽい笑顔。


だからその時は、気のせいだと思った。


ーーーーーーーーーーーーーーー


放課後。


教室には夕陽が差し込んでいた。


真田と斎藤は先に帰って、教室には俺と怜だけが残っている。


「ねぇ巡」


「ん?」


「今日さ、一緒帰んない?」


窓の外を見ながら、怜が言う。


珍しく静かな声だった。


「別にいいけど」


「ほんと?」


ぱっと振り返る。


その顔が、少し嬉しそうで。


なんとなく、断れなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


帰り道。


住宅街を抜ける風が、少しだけ冷たい。


「巡ってさ」


怜が前を向いたまま言った。


「誰にでも優しいよね」


「そうか?」


「そうだよ」


小石を蹴る。


からん、と乾いた音。


「だから嫌」


「は?」


「……なんでもない」


怜は笑った。


でもその笑顔は、いつもより少しだけ弱かった。


「ねぇ」


「今度、屋上来てよ」


「なんで」


「大事な話」


そこで怜は立ち止まる。


夕陽が横顔を赤く染めていた。


「絶対来て」


その声だけが妙に真剣で。


俺は、分かった、とだけ返した。


その時、風が吹いた。


妙に冷たい風だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ