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史上最強のアイドル、異世界転生して、納豆令嬢と、王道アイドルをプロデュース  作者: 逢七


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55.生き続ける思い

シュー・ハロルド視点です

「シュー、今日の演奏もとても素晴らしいわ。」

 暖炉で温まった部屋、マントルピースの近くの椅子にゆったりと座り、まどろんだ表情を見せるのは、ルシアナ皇女殿下だ。

 さっきまで目を瞑って思い出に浸るように柔らかな微笑みを(たた)えていた彼女は、俺が最後に長く弦を引いてす~っと音が広がった、その波紋が届いたのに合わせてゆっくりと目を開けた。


 慈愛も哀愁も感嘆も―――すべての感情が満ち溢れているかのような彼女の海色の瞳を前にして、俺は最上の敬礼を以て、それに応えた。


 満席の演奏ホールにも劣らない高揚感が、ここにはある。


 そんな俺を見て彼女は少女のような無防備な笑顔を見せた。


 そんな彼女の背後、マントルピースの上に飾られた肖像画がふと視界に入る。

 皇帝陛下と皇弟殿下、そして二人の前で微笑むルシアナ皇女殿下を描いたものだ。


 俺の絵のモデルに―――そう思いを伝えていたところ、ルシアナ殿下からの要請があり、そう、つい先日俺が描いた絵だった。




「堅苦しくなくていいの。わたしの部屋に飾るんだもの。普通の家族の姿、そういうのをお願いしたいわ。」


 ルシアナ殿下がそう言って、忙しいはずなのにどうやって時間を作ったのだろうか、準備万端といった様子の皇帝陛下が小さく顎を動かして、すっとルシアナ殿下の後ろに身を移した。ついで皇弟殿下も。


 ―――こうしてみると、やはりよく似ていらっしゃる。


 緊張しながらも夢中になって描き上げた俺のその絵をひと目見て、ルシアナ殿下の表情が一瞬で輝いたことを思い出して、俺は次の曲を弾くために再びヴァイオリンを構え、弦を浅くぴろんと一音弾ませた。




「あれっ、その曲・・・?」

「ん? 何?」

「・・・いいや、何でもない。」

 窓辺からふと声を掛けられ、またすぐにそんな返事が返ってきた。


 さすが耳敏い。

 そうだよ、この曲は昨日ヒーロから教えてもらった曲調でアレンジをしてる。

 テンポを上げた軽快なリズムに合わせて、彼は指先を弾ませている。


「ふふっ。その曲もいいわね。貴方たちのステージがとても楽しみだわ。」


 窓辺でくつろぐイスを眺めて、にこにこと

 とても自然な様子でルシアナ殿下が微笑む昼下がり―――。




 最近の俺は、忙しい時間の中でも隙間があれば、こうしてルシアナ殿下の元を訪れて、演奏をしたり、絵を描いたりしていた。この時間と空間は、俺にとっては、何にも代えられない至福の時間だ。


 だけど今日はいつもと少し違う。


 さっき俺が部屋を出ようと立ち上がったら、僕も一緒に行っていいか、イスがぽつりとそう言って後ろについてきたからだった。


 正直びっくりで心配だった。

 だって、イスが実の母親であるルシアナ殿下に複雑な思いを持っているのは分かってたし、ルシアナ殿下だって、イスのことになると穏やかな表情が一変する。

 そんな二人を合わせてしまうことに抵抗があった。だけど・・・。


 だけど、俺の心配をよそに、俺ら二人を出迎えたルシアナ殿下は、眩しいものを見ているかのように瞳がきらきらと輝いて、けれどすぐに特別な事は何もないかのように穏やかな微笑みを浮かべたのだから。


「まあ、今日はイスも来てくれたのね? 嬉しいわ。」

と穏やかな口調でいつもと同じ様子で、俺を、俺らを、部屋の中へと導いてくれた。


 一方のイスも、こくと頷き、まるで通い慣れているかのような足取りですたすたと窓辺に置かれたチェアに向かうと、冬の柔らかな日差しに眠そうに目を閉じたのだった。


「イス・・・! お前っ!」

 さすがにそういう態度はどうなんだ?


「ふふっ、いいのよ、シュー。」

「ですがっ!」


 ルシアナ殿下はくすくすと笑いながら、熱帯魚が泳ぐようにするすると、長いドレスの裾に薄地の肩掛けが尾びれのように揺れて、温かな湧き水へと向かうように暖炉へと向かった。


 俺は殿下の後ろに付き添いながら、傍のテーブルに持っていた楽器箱を置くとかたんと開く。

 箱の中に大切に仕舞われていたそれの、磨かれた表面の光沢にすっと光が走った。


「・・・・はあ。甘えすぎだよ、イスは。ほんと素直じゃないんだから。」

 ついうっかり愚痴めいたことを言ってしまった。


 つい最近までひどい態度だったくせにさ。ごめんの一言くらい言えばいいのに。


 だけどルシアナ殿下は淀みの一つもなく笑うんだ。

「・・ふふっ、まあ、ほんとうに、そうね。・・・あの人の一番愛らしいところが、似たみたい。」


「・・・・・。」


 一番愛らしいところ、か。


 窓辺に視線を戻すと、そこから冬の庭園を眺めるイスの耳は、傍目にも分かるほどに真っ赤に染まっていた。


 俺はそんな二人の姿を今度は思い出して、緩んでしまった口元を押さえて、続きのメロディーを奏でていく。

 『彼』の作った曲を、ヒーロから教えてらったポップな曲調で、ぴろんぴろんと弦を弾ませて―――。

読んでいただきありがとうございます

美をこよなく愛するシューの心情を意識して詩的な読み口にしてみました

シューの思考のように、美しい場面を飛んで、飛んで

そんなイメージで

毎週投稿!!!!!

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