54.最高の衣装
ユーディ・ランカスト視点です
夜番が明け、ヒーロからの頼まれ事を思い出してランカスト邸に足を運ぶと、屋敷に入ってすぐ側のロビーは、今日もいつもどおりの騒々しさだった。
デビューが決まってから、姉たちは衣装の準備のため、とても忙しくしている。
加えて週に数回、俺たちの鍛錬の手伝いに来てくれているのだ。
それはもう以前とは比べものにならないほどの目まぐるしさといってもいいだろう。
しかし姉たちはそれにとどまらず、ここが自分たちの出番だと言わんばかりに更に精力的に活動を広げていた。
来客に次ぐ来客。姉たちの作る衣装への伝手を求めてやってくる貴族や商家。
それからなんといっても、途切れることなくやってくるご令嬢方・・・・・
そう、皇都中の貴族令嬢が一度は訪れているんじゃないかっていうくらいに、最近のランカスト邸は若い令嬢たちの拠り所になっているのだ。
「ユーちゃん、帰ったのか?」
まいったな。
こんな中に入っていったら、大変なことになる。
後でもう一度見に来るか。
そう思って自室へと向かおうとした俺の足を止めたのは、そんなユリアン姉さんの声だった。
ああ、ばれてしまった。さすがに姉さんだ。しかし・・・。
正直足が進まない。
耳の後ろが緊張感にきんと張り詰める。
けれど、ドア越しなのに感じる姉の視線に俺はごくと唾を飲み込むと、覚悟を決めてドアを開けた。
大丈夫だ。俺は変われたのだから。堂々としていればいい。
そうして足を踏み入れたロビーの中には3人の姉のほかに4人のご令嬢がいた。
廊下で感じた気配通りの人数だ。
またそのうちの一人は、あのファッションショーの時に視線が合った、あの小動物のような小さな少女で、その視線を感じると、なぜだか分からないけれど、重い斬撃を受け止めた瞬間のような恐怖感と高揚感で、俺の心臓はばくばくと音を立て始めた。
「何か用か? こんな時間に帰って来るなんて。」
そんな俺の心情を見透かしているかのように、まだ距離が遠いにもかかわらず、ユリアン姉さんはよく響く声でそう問うてきた。
見れば姉さんは口端を上げたままに俺の答えを待っていて、視線が合ったパウリー姉さんとティリー姉さんはそっと肩を浮かす。
やはり姉さんたちだなぁ、そんな風に思ううちに鼓動も少し落ち着いて、俺は深呼吸の代わりにぱちりと瞬きをひとつした。
「―――お客様のいるところに申し訳ない。ヒーロクリフから頼まれてきたんだ。何か預かってきてほしいものがあると。今、いいだろうか?」
よし、大丈夫だ。
いつもどおりに話ができる。
「ああ、構わないよ。こっちに来て話したらどうだ?」
俺が落ち着いた態度を意識しているのが分かったのか、姉さんはそう言ってわずかに目を細める。
ぐっと顎を引いて、俺は歩を進めた。
ざっざっざっ!
近付くにつれ、彼女たちの視線が俺に突き刺さるのを痛いほどに感じる。
だけど俺はもう分かる。
この視線は悪意のあるものではない。
「ここに座れ。お前は大きいからな。顔が良く見えないだろう。」
「・・・・・。」
姉さんの言うがままに、俺は引かれた椅子に腰を落とした。
がん!と、腰に佩いた剣の先が床に当たって大きな音を立て、
しまった!そう思ったものの後の祭りだ。
あ~あ、何やってんだ? っていう顔でパウリー姉さんが見ている。
―――だから、ついちらっと、そうちらっと『彼女』に目を向けてしまったのだが。
彼女はぱちぱちと瞬きをして、そのくるんとした黄金色の瞳は、すぐにふっくらとした下瞼の奥に消えてしまった。そしてぷくりと膨らんだその頬は色づき、小さな手が小さな口を覆って―――
「ばかっ!! ユーちゃんってば、見過ぎだからっ!!」
側頭部をごっと突っ張られて、なんだ?と見れば、隣でティリー姉さんが目を引きつらせている。
「・・・っ! あ・・・・、す、すまない、失礼なことを・・・!」
俺はいったい何をしているんだ。
まさか夜番で疲れているのか?
こんなにぼーっとしてどうかしている!
すると『彼女』は、びっくりしたように目を見開いて、その瞳は月のようにまあるくて。
どくん ❤️
ん? なんだ?
「あーーっと、ユーディ!! お前もちょっとこれを見ろ!!」
そのとき急に耳に響くでかい声がして、俺の視界は、ユリアン姉さんがざんっと差し入れたデザイン画の束に塞がれた。
咄嗟に手にして開けば、そこに描かれていたのは、最近ヒーロクリフがよく来ているような立襟のついた服に華やかなアクセサリー、革ベルトで装飾されたタイトな騎士服、それからローブのようなフードのついたマントや―――それはどれもこれも体格の大きな男性をモデルに描かれた画で、俺はそれらを身に纏った自分を容易に想像して―――すぐに、わくわくした!!
この俺が、こんな華やかな服を着るのか!
「どうだ? そいつがお前用の衣装の予定だ。どこか、気になるか?」
「いいや、ありがとう! 最高だよ、姉さん! あ、でも、この部分なんだけど―――。」
俺が首回りの襟の高さや袖のベルトの位置など、気になったところを指差すと、姉さんは「ああ、なるほど」と真剣な顔で聞いてくれる。
それが嬉しくて夢中になって話していたら、時間も忘れてしまった。
やがて話を終えてほくほくしている俺に、ユリアン姉さんがさらっと言った。
「ああ、で、なんだっけ? ヒイロに頼まれたって言ってたな。・・・うん、そうだな、じゃあ、こうしよう、ユーディ。ヒイロに、このデザイン画をとどけてもらう予定だったんだけど、もう少し手直しが必要なようだ。わたしはこれを、最高の衣装に仕上げるよ! そう伝えてもらえるか?」
さすが姉さんだ! 仕上がりが更に楽しみだ。
「ああ、分かった。」
そのため俺が勢いよく頷くと、姉さんも満足そうににっと笑う。
「で、お前は今日はあと非番なんだな?」
「ああ、そうだが?」
「じゃあ、ちょうどよかった。こちらのご令嬢をお前が責任を以て送り届けて欲しい。」
「ああ、もちろん・・・・・・・っ、ご令嬢!?」
はっとして首を回すと、にこにこと微笑んでいる『彼女』と目が合った。
瞬間、俺の首筋がぴきと固まる。
「じゃあ、頼んだぞ!」
「ね、姉さん!?」
さっと席を立った姉さんの向かう先は、窓際のトルソーに掛けた服を見て話をしているパウリー姉さんや他のご令嬢たち・・・いったい、いつの間に?
「あの・・・、ユーディさま?」
小さな、小動物の鳴き声のような、そんな声で呼ばれて、俺が慌てて視線を戻すと、当たり前だが、目の前のテーブルには、俺と彼女だけ―――。
困ったように眉を下げる彼女に俺の喉ぼとけがごくと動いた。
いったい、なんで、こんなことになってる?
「あの・・・、ご迷惑・・・でしょうか?」
「いっ、いや! だ、大丈夫だっ! 行こう・・・行きましょう、か。」
俺の方こそ迷惑ではないだろうか、いや、でも!
がたん、と立ち上がって、咄嗟に騎士学校で習った記憶の中の礼法でエスコートを申し出ると、彼女はほっとした様子でそこに、とても小さな手を載せた。
背筋がぞわりとして、そして、どくん❤️と、また俺の心臓が高鳴った。
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