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史上最強のアイドル、異世界転生して、納豆令嬢と、王道アイドルをプロデュース  作者: 逢七


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53.私に間違いはない

*ハロルド・イゼンブル視点です

「ねえ、ハル兄さまっ、ハル兄さまは『推し』というものをご存じですか?」

 執務を終えて屋敷に帰った私を真っ先に出迎えてくれたリシャルカが、ひょっこりと左横から私を見上げてそう言った。


 この可愛い妹は、一時期、皇子妃教育の成果を披露するかのように我が家でも淑女然とした所作をしていたのに、最近ではなぜかまたこのように愛らしい姿を見せている。

 それを父上を始めとした家人の誰一人として咎めるものもおらず、少々心配になるくらいだ。


「リシャ、着替えを終えるまで待ってくれないか。」

「はあい。」

 とととっと部屋の出口に向かい振り返ると、リシャルカはにこりと笑う。

「早くね、お兄さま。」


 先に釘を刺されてしまった。

 食事の前まで部屋に籠って、デビューのシナリオをもう少し練ろうと思っていたのだが。



 ぱたんとドアが閉じて、着ていたシャツの袖口、カフスボタンを外し、湯気の籠る浴室に向かう。

 帰宅時間に合わせて適切な温度に合わされたバスタブに身を投じると、冷えていた体が瞬間緩んだ。


 他の者より時間が短いとはいえ、毎日のように身体を動かすのにはまだ慣れそうにない。


 果たして、この『アイドル活動』というものが、この国にどんな影響を与えるのか、私はいまだに自問自答を続けている。だが、想像するに、リシャルカを始めとした貴族令嬢たちや国民の笑顔を簡単に想像してしまうぐらいには、この『アイ活』というものは有益な事業、かもしれない。


 ソウ様から話を振られてヒーロの思い付きに関する相談を受けた時には、まともに実現するとは思ってもみなかった。

 それがするするとここまで来て、私自身がこんなにどっぷりと携わることになろうとは。


 それも計画だけではなくて、人前に立って踊って歌うなどと―――




「・・・・・はあ。いや、私に間違いはないはずだ!」


 そう、全ては国が潤うための手段だ。

 この活動による経済的効果は相当なものだと、私は試算している。


 ざばと上がって身体を拭うと、湯気で煙った大きな鏡に全身が映った。いつもと同じだ。

 長い紫色の髪をぎゅっと絞りカトレット領から購入した温風機の前で髪を乾かす。

 それにしてもカトレット領は驚くほどに独自の発展を遂げているのだな。


 用意されていた着衣一式を身に纏い浴室から出ると、私は持ち帰って来た企画書の中ほどのページを開いて一言二言書き加え、ディナールームへと向かうことにした。


 話がしたいと言っていたから、少し早いけれどもう来ているかもしれない。

 階の異なる妹の部屋にはもう何年も足を踏み入れていないし、リシャルカの顔を見るのはいつもそこなのだから。


 翼を広げたような配置の東棟西棟、その中心に位置する中央棟にディナールームがある。東棟は侯爵家の居住区域が序列の順に並び、また客人向けのスペースが設けられている。西棟は使用人らの区域だ。

 その東棟の長い廊下を歩きレオナルド兄上の区画に差し掛かった頃、嫌なことに、まるで狙っていたかのようなタイミングで、その部屋のドアが開いた。


「! ハロルドじゃないか。お前も帰ってたのか。」

「・・・ええ。兄上も早いお帰りで。」

「まあな。ところでお前、順調なのか?」

「順調・・・? 何がですか?」

「何が、って。あれだ。アイドル活動だろ。」


 面白そうににかっと笑って兄上はすっと身を寄せると、私の背に腕を回す。

「ははっ! いいんじゃないか。国益に繋がる重要案件だろ。俺も応援するよ!」


 そんな風に言われても馬鹿にしているようにしか思えない。

 咄嗟に振り払おうとしたものの、体格のいい兄上には敵わなかったため、私は眉を寄せて睨んだ。


「やめてください、兄上! 私をからかってるんでしょう?」

「いいや。年がら年じゅう蒼褪めた顔をしている弟より、ずっとましってことだ。しっかりやれよ。」


 反論しようとしていたのに。

 その言葉につい立ち止まってしまった私の肩をぽんぽんと叩いて、兄上は私を追い越して行く。




 ―――結局ずるいんだよ、兄上は。


 ぎゅうっと拳を握りしめて、その背を睨んだ。

 羨ましくて追いつきたくて追い越したかった背中だ。


 私は負けたのだろうか、いいや、違う道に進むことになっただけだ。

 誰かと比較されることもない、自分で切り開いていかなければいけない、その道に私は立っている。

 そうだ。私自身が望んでいたことじゃないか。


「それがお前の選んだ道なら、がんばりなさい。」

 ひと月前、アイドル活動の説明をするために、ソウ様と共に皇帝に面談したとき、『了承』の返事の後、宰相としてその場に同席していた父上がしきりと口元に手を触れながら、私に言った言葉を思い出す。


 ・・・いや、わたしは間違ってはいないはずだ!




「・・・ル兄さま? ハル兄さまてっば!!」

「・・・・・・リシャ?」

「お兄さま! ちゃんとわたくしのお話を聞いてください! ずっと黙っているなんて、ひどいわ!」


 いつのまにディナールームまで来ていたのか。

 左隣にはリシャルカがいて、私に話しかけている。


「あ、ああ。すまない。なんて言った?」

「・・・もう!! わたくしはお兄さまを推しますから、って言ったんです!」

「・・・推し? なんだ、それは?」


 聞き馴染みのない言葉だ。

 

 するとリシャルカは、今日皇子宮の東屋であったという集まりでの出来事を、勢いづいて話し始めた。

 ご令嬢方の中での今の流行、それが、私たちの誰を支持するのか、言い換え『推す』のか・・・そういうことらしい。



 私は血の上った額を手で押さえつつ、第4皇子の話よりよほど熱中した様子で語る妹にとまどっていた。


 ・・・・・大丈夫だ。私に間違いはない。

 どうしてって、これは、そう、国益に繋がる重要案件・・・のはずなのだから。

読んでいただきありがとうございます!

シリアスじゃない話は、筆が進みやすいのです^^

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