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フィンレイが走った後を追いかけ、村の中に入る。前方から悲鳴や怒号が聞こえる。
家屋が見えてきた。小屋のような、簡単な作りだ。その前に倒れている女性。地面は雨に濡れて、濃い色をしている。しかし、彼女の周りだけ、異様に黒い。
「メアリーッ!!」
フィンレイは彼女に近づくとうつ伏せの彼女を起こす。
「ッ!!」
「ぅッ!」
悲鳴を噛み殺す。服が捲られ、腸が見える。フィンレイが起こしたことで、地面には臓器がこぼれる。
てらてらと血濡れたピンク色のソレは陽の光を反射していた。フィンレイは狼狽えたが、すぐにメアリーに声をかける。
「め、メアリー?俺が分かるか?おい!」
「ぅう…」
メアリーは呻きながらも口を動かしていた。零れ落ちた泥まみれの腸を血塗れの手で口へ持っていく。それを嚙み千切ると、ぐちゃぐちゃと音を立てながら咀嚼している。その目にフィンレイや俺を映すことはなく、ただ一心不乱に、血気迫ったように、口に腸を詰めていく。
「あはっ。あれ、悲鳴に釣られてきたのかなぁ?」
がしゃりがしゃりと土を踏みしめる音がする。異形が現れた。フィンレイはメアリーの肩を持ったまま動かない。
「誰だよ!?」
俺が叫ぶ。
上半身は男の子だが、下半身は蟷螂とムカデを足したようなフォルムをしている。鎌のような脚が二本、そして棘のついた無数の足がこすれ合って歩くたびに不協和音が響く。
「初めまして、お嬢さん。ボク、蟲の王の寵愛をお受けし、尽くす者…かな?」
「……フィンレイ?」
蹲ったまま腕を動かすフィンレイ。俺はよくわからない虫人間から目を離さないまま、そっと肩を叩く。
「フィンレイ?」
フィンレイは何かを咀嚼していた。
「フィン、レイ?」
それは赤くて、てらてら輝く、メアリーという女性の中身。破れた腹の中に手を入れて、ただただ臓物を掻きだす。メアリーもまた、周りの皮膚を引きちぎって、自分を破壊していく。
うるさい。誰かの悲鳴が聞こえる。甲高い女の悲鳴が。それが自分の口から出ているのだと、喉の痛みで気づく。
「なんだよ、なんだよ、なんなんだよこれ?お前がやってんのか?」
「凄い力だよねぇ。ボクもそう思う! みんなみんなお腹が減って仕方がないんだねぇ。腹ペコで自分を食べてないと正気が保てないのかなぁ? あはっ! 正気じゃなかったねぇ」
異形は嗤う。
「こういう時なんていうんだっけ? 人間サマは。籠の中に入れてぇ、共食いさせてぇ、笑って見てあげないとねぇ?」
そういった瞬間、空から何かが降ってきて、異形を潰した。
「グズがッ!!死ね!!」
金髪を棚引かせて、村長アシュリィちゃんは登場した。
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