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予言がもたらしたもの


 テデス歴二五六〇年雨月の折。

 今にも泣きだしそうな曇天が上空に広がる中、アデラウス国随一の豪奢さをもつ王宮内、玉座の間にて王に謁見する者がいた。


「恐れながら申し上げます」


 少々掠れたような性別不明の声が、読み上げるように滑らかに報告を始める。


「この度、中央神殿に祀られし宝珠に凶兆があらわれました。ご存知の通り平時は銀色に鈍く輝く玉でございますが、二日前より急速に、内部にて炎の如く揺らめく魔力が顕現致しましたので、ご報告に参りました」


 発言しているのは緊急かつ内密にと招かれた国一番の祭司である。

 祭司とその背後に控える二名はいずれも体格を隠すようにローブを着用しているため、年齢や男女の判別はつかない。

 王の御前でありながら不敬と断じられることのないその姿は、彼らが崇拝するラウス教が主教としていかにこの地に根付いているかを示している。


「して、その形は如何に」


 玉座の間中央より奥、幾段も高い位置に座する王が厳かに問うた。

 宰相と第一王子の他は数人の近衛兵のみが控えることを許された広間に、祭司の声が響く。


「――『鬼形』を示しております」

「……そうか。間違いはないのだな」


 かつてない危機の予兆を受けて、場に重い空気が漂う。

 

 太古の昔からこの地で祀られてきた宝珠は、時折予言のようにその身に魔力を宿らせる。

 創世神話を謳うラウス教は長年それを管理し、魔力の渦を紐解き、意味を解読し、治世に生かす役目を担ってきたといえる。

 その長い歴史の中では、繁栄を表す『樹』や、命の炎を司る『龍』など、吉兆の証があらわれることもあったという。

 しかし今、魔力の渦にははっきりと、闇の象徴であり死を司る唯一の門であるとされる『鬼』が出た。

 宝珠の異常は、すなわち世界の意思の現れだ。

 由々しき事態に、第一王子の喉がごくりと鳴った。


「早急に、各国へ手配すべきかと」

「うむ」


 信仰の有無にかかわらず可及的速やかに諸国と対策を練るべきであると判断し、宰相の言葉に肯定を示した王は、民への情報規制と各国代表への通達を最優先に動くよう指示を出した。


 こののち、かねてより芽吹いていた三つの災厄が蕾をつけたことが知れ渡り、ただでさえ慌ただしく対応に追われる人族の国々は否応なしに混乱の渦中へと落とされていくことになる。


 世界の因果によってそれらが花開き、蜜を零すまで、残された時間はあと僅か。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


次回、第一章開幕。お楽しみに。

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