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Z01 開かれし地下会議

いつもお読みいただきありがとうございます。

第二章、開幕です。

 アデラウス国からの極秘の伝令が使者によってもたらされた、まさにその日の夜のこと。

 人族の多く住まう土地、その地下に造られた薄暗い会議室に六人の男女が召喚されていた。

 石造りの円卓に着席し待機する彼らはいずれも暗色のローブを深く被っているため人相などは確認できないが、全員の視線が一つの空席に向けられていることは察せられる。


「……おい、呼び出した本人が遅刻ってのはどうなんだ?」

「ほんとよねぇ。わざわざ忙しい中来てやったってのにねぇ」


 各々が疑惑、恐怖、緊張、退屈などの心理状態を抱えて召喚者を待っている状況である。

 決して大きくない会議室内は険悪な雰囲気に包まれていた。

 特に、空席の右隣でしびれを切らして舌打ちをした男と、同じく空席の左隣で頬杖をつき気だるげに溜息をついた女からは我慢がならない様子が伝わってくる。


「うう……い、嫌な予感がする」

「あんたはいつもそう言ってるけど、それ口癖なのぉ?」


 だるそうなその女はさらに左隣にいる男に呆れた声を投げかける。

 その男は小柄でローブの上からでもわかるほどに震えており、さらに縮こまるように身をすくめていた。

 一方で軽薄そうな態度を隠しもしないお喋りな男は、苛立ちに任せて自身の右隣に位置する小柄な女に話しかける。


「あー呼ばれたら絶対集まらなきゃならねえなんて誰が決めたんだか。なあ、あんたも今日はここにいる予定じゃなかったんだろ? めんどくせーよなあ」

「……」

「っち、相変わらずつれねーの」


 話しかけられても微動だにしないその女の隣にいる残り二人も、不必要な会話はいらないとばかりに沈黙している。

 そうして集合時間を半刻も過ぎた頃になって、ようやく二人の男が部屋へと入室してきた。


「おい、遅えじゃねえか」

「悪かったね、表の会議が踊ってしまってなかなか収集がつかなかったんだ」

「へっ。どこのお偉いさんも所詮能無しばっかだな」

「まあそう言わずに」


 遅れた二人のうち、召喚者である男はひとり明色のローブをまとい、もう一人の男が引いた席に座りながら申し訳なさそうに弁明し、待ちくたびれた様子を隠しもしない右隣の男の機嫌をとる。

 そして一度円卓に座る面々を見渡して頷き、口火を切った。


「皆、揃っているね。ご足労いただき感謝するよ。さて此度集まってもらったのは他でもない、今日届いたくだらない予言の内容と、今朝発覚した厄介な問題の二点を共有し、対策を練るためだ」

「はぁい質問。予言ってのはつまりぃ、あのラウス教が監視してるっていうあの宝珠に異変が出たわけ?」

「そう。伝達によると『鬼形』が出たらしいよ」

「「!」」


 左隣の女と主催の男のやりとりに、会議室の空気が小さくざわめいた。

 沈黙を貫く者も含め、予期せぬ不吉な予言を聞いた全員の警戒心が高まるのを感じる。


「災害級のやつ……ってか」


 軽薄な男が唸るように呟くと、それまで黙っていた大柄な男が静かに口を開いた。


「……今までにそれが出たのは『大繁殖』の時のみ。……ゆえに、これは二度目の世界の危機と捉えてよろしかろう」

「せ、世界の危機……いったいどうして……」


 厳かにも思えるほど淡々と事実を述べた男に対し、耐えられないとばかりに臆病な男が震えた声を出す。

 張りつめた空気感の中、話の初めにその予言をくだらないと一蹴した主催の男は大げさに溜息をついた。


「理由はわからないけど。もしかしたら、どこかの種族がとてつもないことを起こそうとしているのかもしれないね」

「……たとえば?」


 全く信じていないとばかりに軽い声を出す主催の男に、思わずといった様子で大柄な男の隣にいた背の高い女が尋ねる。

 この場の者もめったに聞かないハスキーなその声に、軽薄な男などは珍しいものを見たという目を向けたほどだ。


「そうだねえ。なんたって『鬼形』が出ているんだし、鬼族のだれか……とか?」

「そんな単純な話なのぉ?」

「いや、それもまだわからないけどね」


 ゆったりとした口調で頬杖をついた主催の男に、左隣の女はローブの下から胡乱なまなざしを向けた。

 それに苦笑混じりで返し、主催の男はいっそ心地よく感じるほどの声音で続ける。


「まあ、そんなものに踊らされるなんて馬鹿げてる、と僕自身は思うけれど。なにせ、上層部が真に受けて右往左往している状態だからね。一般民には情報規制が敷かれるらしいし、ここで万が一何かが起こってしまうのは、僕らの計画としても避けたいところだろう?」


 そう言って両手の平を卓上の全員に向けて掲げ、微かに首を傾げる。

 この場にいるのは、ある唯一無二の計画に対する賛同者と協力者のみだ。

 薄暗い会議室を照らす天井中央の明かりがほのかに明滅し、各人の影が揺れる。


「ああ、そうだな。俺たちゃいわば運命共同体。この計画を成し遂げるまで、止まるわけにはいかねえんだ」

「そうねぇ……せっかく軌道に乗ってきたのに、今、邪魔されちゃぁ困るのよねぇ」


 力強い決意に満ちた声はこぶしを握り、面倒くさいことは勘弁といった声は溜息交じりで。


「……それが我々の使命ならばこそ、障害は即刻、退けるべき」

「こ、怖いのは嫌だ、は、は、排除だ、そうだ、それがいい」


 腹に響くような厳格な声と、恐怖に震えつつも半笑いを浮かべる声からは積極性がうかがえる。


「……」

「……御意に」


 発言はないが微かに首肯を示した者と、中低音の呟くような忠誠の意志がそれに追随する。

 一連の様子を満足げに見渡した主催の男はうんうんと頷いて、そのうちの二人へと指示を出した。


「じゃあまずこの件は君と君にお願いしようかな。君はアデラウスの神殿回りから内部を調査してくれるかい? もう少し正確で詳細な情報がほしいんだ」

「……承知した」

「それから、君は各種族の最新情報を仕入れてきてくれるかな。些細なことでもいい、何か特別な動きがないかどうか調べてきてくれ」

「……」


 指名されたのは大柄な男と小柄で無口な女だ。

 二名の了承の意を確認した主催の男は「この件はひとまず情報待ちとしよう」と話に一区切りをつけた。


「……で、だ。もう一つの件は、少々自分も予想外でね」


 そう呟いた彼は、急に雰囲気をがらりと変えて後ろに控え立っていた男へ厳しい声をかける。


「おい、お前から簡潔に伝えろ」

「はっ、報告いたしますっ。昨夜に突如起こった大規模な爆発によりっ、第八施設の壊滅を確認、生存者なしっ。また、原因と考えられる我々秘蔵の被検体の死体が発見されなかったことから、恐らく逃亡したと思われます……!」


 先の話の間、焦燥感に苛まれたまま待機していた男は掠れた声を張り上げた。

 なぜならこの男こそが各研究施設の警備管理長を務めており、この度の責任を一身に受ける立場であるからして。


「なんですってぇ……私たちの貴重な標本サンプルちゃんを、どうしてくれるのよぉ!?」

「おい、冗談じゃねえぞ!」

「ひいっ!」


 勢いよく立ち上がった両名からの叱責に飛び上がり情けない悲鳴を上げる男は、内心どころか実際の息も絶え絶えだ。

 精神的圧力を受けて固まってしまった警備管理長を振り返ることもせず、盛大に息を吐いた主催の男は自ら簡潔に説明を加える。


「約十年、よく実験にも耐えてくれたと思ったんだけれど、まさかこの段階でこの手からすり抜けてしまうとはね……。皆も知っての通り、No.一〇五九は赤龍の血を濃く継ぐ者で、他の同族とは比べ物にならないくらい優良な研究成果を出してくれていたんだ。それこそ他種族の有象無象の実験体など、取るに足らないほどにね」


 そう言って俯き、普段の余裕気な態度からは想像もつかないほど怒りを滲ませた主催の男は唸る。


「……龍の血は我々の悲願に欠かせないモノの一つだ。ここまで来て、みすみす野に返すわけにはいかないんだよ」


 声に滲む以上に机上で組んだ両手のこぶしが軋むほどの怒りと焦りが見て取れ、慌てて左隣の女が口を開く。


「そ、それならぁ、私とあいつですぐに探し出してみせるわぁ!」


 咄嗟に指を指し示した先は軽薄な態度の男。

 彼も大きく頷き、「ああ。俺なら探知もそれなりに得意だ、やってやらあ!」と声を上げる。

 しばし無言でその姿を眺めた主催の男は、怒りを鎮めるべく小さく深呼吸をして組んでいた手をほどいた。


「ふう……それならば、君たちに期待するとしよう。必ず連れ戻してくれ」


 憤怒の圧力が霧散し、主催の男の両脇の二名は人知れずほっと息を吐いた。


「以上、二点が本日の議題だったけれど。何か質問はあるかな?」

「あ、あのう……こ、今回、僕は、な、何をすれば……?」


 なければ会議を終わらせようと再び落ち着いた声で首を傾げた彼に対し、控えめに手を挙げたのは小柄な男だ。

 主催の男はうーんと一拍考え込んだのち、指示を出す。


「そうだな、君にはこの件の後始末を頼もうか。どうやら現場は見事にバラバラのようだし、もろもろの回収と……あと彼の処罰も君に一任するよ」

「りょ、了解……っ」


 心なしか嬉しそうな声で了承する小柄な男に、警備管理長だった男は血の気が引く思いで主催の男へと視線を投げかけたが、彼は男のことなど眼中にない様子で最後の指示を出す。


「それから、余った君には実働部隊を任せることにしよう。計画に必要な、魅力的な素材・・を集めてきておくれ」

「……御意に」


 背の高い女が返した感情のない声にひとつ頷いて、主催の男は再び全員に向けて両手を掲げた。


「さあ、我々の一大計画を必ず成し遂げるため、引き続き一丸となって動くとしよう」


 彼らは自らの信じる正義に向かって、貪欲に突き進む。

 その波は次第に大きくなり、そうして押し寄せる先に待ち受けるのは栄光か、破滅か。


 波自身にそれを知るすべはなく、到達点にて安寧と過ごす数多の存在にも、また知るすべはない。


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