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第46話

 アスターテは、必要な範囲だけを自分の言葉で記録へ残し、正式な刑事申立書へ署名した。

 書記は、申立書と供述を薄紙へ包んだ。


 詳細を収めた内側の包みには、閲覧制限の申請があることを記し、法院の印を押す。外側の受領目録には、申立人の名と日付、文書の種類だけが残された。


 アスターテは赤い蝋が固まるまで見ていた。


 昔の無地の封筒は、彼女の名を消すために家の引き出しへ隠された。


 今度の封は、名を消さず、語った言葉を他人の好奇心から遠ざけるために下ろされている。


 書記が文書箱へ鍵を掛けると、アスターテは初めてマルガレーテの手へ触れた。


「あなた方がしたことを、正しかったとは申しません」


「ええ」


「けれど、助けられなかったとも申しません」


 マルガレーテの指が、アスターテの手の下で静かに震えた。


「どちらも、残してください」


「ええ」


「リーゼロッテの婚姻で、一つに片づけないでください」


「決して」


 アスターテは手を離した。


 扉の向こうでは、ヴァンフリートとアエミリアが何か言い争っている。声は低く抑えられていたが、修道院の廊下は秘密を守るようには造られていなかった。


「先生は、静かに待てないのですか」


「待ってるだろ。これは静かな口論だ」


「口論に静かなものはございません」


「修道女に聞け。祈りだって神との長い口論だ」


「また追い出されますわよ」


 アスターテは扉を開けた。


 二人の声が同時に止まる。


「終わりましたか」


 シグルーンが立ち上がった。


「ええ」


 アスターテはリーゼロッテの申立書を手にしていた。


「この写しを、お借りしても?」


「お渡しできます」


「では、しばらく預からせてください」


 紙の末尾にある名を、もう一度見る。


「リーゼロッテへ、いつかお会いしたいと伝えてください」


「いつか、でよろしいのですか」


「ええ。あの子が望む時に」


 アスターテは窓の外へ目を向けた。


 細い雪が降り始めていた。


 中庭の黒い土へ触れると、白い粒はすぐ水へ戻る。それでも空からは絶えず下り、石壁と枯れた薬草の上へ、消えては新しい白さを置いていった。


 法院書記が、彼女の名を収めた文書箱を抱えて門を出る。


 雪の道を、馬車は王都へ下っていった。


 アスターテは修道院に残った。


 十二年前、彼女は恐怖から逃れて、この門をくぐった。


 今度は恐れを消さないまま、自分の言葉だけを門の外へ送り出した。


 鐘が鳴った。


 十二年前と同じ音だった。


 けれど、その音の後に沈黙するかどうかを決める者は、もう彼女のほかにいなかった。

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