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第43話
法院書記は、面会記録を初めから読み返した。
リーゼロッテが先の署名を自身のものと認めたこと。全容と不利益の説明を受けた後、婚約の成立を拒んだこと。婚約登録申請の却下を求め、父と兄の職務上の行為を、自身の婚姻によって争わないとは約束しないこと。
「訂正はございますか」
リーゼロッテは少し考えた。
「『以前の意思を撤回した』とは、書かないでください」
法院書記が顔を上げた。
「どのように改めますか」
「以前の署名は、知らされていないことがある中で書きました。今は、そのことを知った上で、婚約の成立を拒みます」
シグルーンが記録の一節を指した。
「先の署名の真正は認める。ただし自由な婚約意思を示すことは争い、現在は成立を明確に拒む。そのように改めてください」
法院書記が書き直した。
リーゼロッテは読み、署名する。
婚約条件書にも、申立書にも、面会記録にも、同じ名があった。
十二年前の沈黙にも、父の秘密合意にも、兄が付け替えた記録の道にも、彼女の名はなかった。
けれど、今の拒絶にはあった。
リーゼロッテ・フォン・ローエンハイム。
窓から差す午後の光が、乾きかけた墨の上を通り過ぎた。
誰も、その名を別の意味へ読み替えなかった。




