88/195
第41話
扉の外では、ヴァンフリートが廊下の窓へ寄りかかっていた。
アエミリアは長椅子に座り、冷えきった茶を両手で持っている。誰も口をつけなかったらしく、表面には窓枠の影が黒く浮かんでいた。
シグルーンが扉を開けると、ヴァンフリートが顔を向けた。
「終わったか」
「依頼人との相談内容を、あなたへ報告する義務はございません」
「知ってる。家族は扉の向こうの会話まで相続したがるからな。俺は相続放棄してる」
リーゼロッテが部屋から出た。
「兄様」
「何だ」
「午後、オットフリート様へ、わたくしからお伝えします。同席していただけますか」
「ああ」
「ただし、わたくしが話し終えるまで、何も仰らないでください」
ヴァンフリートは妹を見た。
「父上の職権濫用より、実現の難しい命令だな」
「でしたら、廊下でお待ちください」
シグルーンが言った。
「分かった。黙る。人間は順序を守るだけで、品性まであるように見えるらしい」
「先生には、効き目が薄いかと」
アエミリアが言った。
「お前は俺の助手だろ。少しは希望を持て」
「証拠のない希望は、先生がお嫌いでしょう?」
ヴァンフリートは返事をしなかった。
リーゼロッテの口元が、笑うより先に静かになった。




