第30話
返された革袋がアーデルスドルフ邸へ着くのと、六通の書簡が法院の封へ移されるのと、どちらが早いか。
翌朝の黒鹿亭では、まだ誰にも分からなかった。
「兄貴の愛情を送り返したんだ。次に届くのが祝辞とは限らない」
ヴァンフリートが言った。
「脅す気か」
ギュンターは階段を上りながら振り返った。
「予報だ。外れることもある。お前の兄貴が善人だった場合とかな」
「ローエンハイム卿」
シグルーンが後ろから呼んだ。
「推測を事実のように仰らないでください」
「事実はお前が記録しろ。俺は嫌な可能性を担当する」
黒鹿亭の二階は、下の酒場より静かだった。
細い廊下には昨夜の煙が薄く残り、壁の内側を走る水の音が、どこか遠くの雨のように聞こえている。ギュンターの部屋は突き当たりにあり、扉を開けると、朝の光が旧市壁に遮られ、床の上で冷たく止まっていた。
寝台の足元に、古い旅箱が置かれている。
その前へ、法院書記が膝をついた。
黒い袖覆いを肘までつけた、痩せた男だった。扉の位置から旅箱までの距離を歩幅で測り、錠と蝶番を確かめ、窓が内側から閉じられていることまで記録する。
「随分と丁寧だな」
ギュンターが言った。
「丁寧でない書記が扱った証拠は、法廷で急に孤児になります」
「先生のお話と同じですね」
アエミリアが言った。
ギュンターが鍵を差し込むと、錠は一度、乾いた音を立てて拒んだ。二度目に力を込めると、内側で錆が崩れ、重い蓋が持ち上がった。
外套を退けると、箱の底に薄い板が現れた。
法家が証書を運ぶために作らせる、浅い文書入れだった。右の隅を押すと反対側が浮き、その下から灰色の油布に包まれた束が出てきた。
法院書記は、まだ触れなかった。
「この状態で、昨夜から保管されていましたか」
「ああ」
「昨夜、開封なさいましたね」
ギュンターの手が止まった。
書記は油布の結び目を指した。
青い紐は日に褪せていたが、結び直された箇所だけ、折り目が新しい。油布の上にも埃は残っているのに、紐の下だけが細く灰色を失っていた。
「確認しただけだ」
「何をです」
「六通あることを」
「読む必要がございましたか」
「自分が何を渡すのか、確かめるのは当然だろ」
「順序も変えましたか」
ギュンターは答えなかった。
法院書記が顔を上げた。
「日付順ではないように見えます」
「読みやすいように並べた」
「誰にとって?」
ヴァンフリートが尋ねた。
「俺たちか。お前か。それとも十二年後の裁判官か」
「内容を理解しやすい順だ」
「親切だな。証拠が口を開く前に、お前の弁論だけは済んでる」
シグルーンが油布を見た。
「包みを開く前の配列も記録してください。その後、日付順に改めます」
「俺が偽造したとでも?」
「申し上げておりません」
「疑ってる顔だ」
「顔は記録に残りません。昨夜あなたが開き、並べ替えた事実は残します」
ギュンターは舌の先まで来ていた言葉を戻した。
法院書記が油布を開いた。
古い紙の匂いが、冷えた部屋へわずかに広がった。
六通はいずれも開封されていた。
二通には印形がほぼ完全に残り、残る四通も、砕けた封蝋を合わせれば同じ私印であることが分かる。紙質は二種類あったが、筆跡は同じだった。
墨の濃淡も、同じ癖で右へ流れる文字も、十二年を経てなお一人の手を示していた。
「兄の字だ」
ギュンターが言った。
「印もオットフリート様のものですね」
シグルーンが尋ねた。
「ああ」
「比較が済むまでは、あなたの申告として扱います」
「分かってる」
「でしたら、その不満そうなお顔は不要ですわ」
「顔は記録に残らないんだろ」
「残らないものまで汚しておく必要はございません」
ヴァンフリートの口元がわずかに動いた。
「お前、俺がいなくても立派に嫌な女になったな」
「安心なさいませ。あなたほどではございません」
法院書記は、ギュンターが並べた順を受領目録へ写した。
それから一通ずつ日付を確かめ、古いものから白布の上へ置き直す。
六通の順序が変わるにつれ、ギュンターの指は旅箱の縁へ深くかかった。




