第9話
裁定は、日が窓の下まで移った頃に告げられた。
ベアトリクスとオスカーの婚約は、本人と両家の合意、婚約証書、立会人によって成立していた。
破談の手紙は本物だが、後発の婚約届が出された十一日の時点では、ベアトリクスへ届いていない。したがって、その日には先行婚約はまだ解消されていなかった。
オスカーが法院へした、未解消の先行婚約はないという申告は事実に反する。
一方、セシーリエはオスカーから婚約解消済みとの説明を受けており、それが虚偽であると知っていた証拠はない。故意に他人の婚約者を奪ったとの主張は認められなかった。
後発の婚約届は、そのままでは効力を保てない。
先行婚約についても、オスカーの行為を理由として、ベアトリクスには責任を負わず解消を求める権利がある。
二人が婚約を続けるか、解消を選ぶかは、それぞれ本人の意思を確認した上で処理される。持参財産と婚礼準備のために出された費用は返され、虚偽の説明によって生じた名誉上の損害はオスカーが負う。
さらに、法院への虚偽申告については、官職推薦を扱う部署へ裁定の写しが送られることになった。
オスカーが顔を上げた。
「官職推薦まで、この婚約の争いに関係するのですか」
「婚約の争いじゃない」
ヴァンフリートが答えた。
「法院へ嘘を書いた人間を、官職へ推薦していいかって話だ。安心しろ。今度はお前の説明も一緒に送ってもらえる。三つ目か四つ目か、好きなのを選べ」
オスカーは何も言わなかった。
裁定官が最後に、ベアトリクスとセシーリエへ尋ねた。
「婚約をどうするか、考える時間は必要ですか」
ベアトリクスはオスカーを見た。
セシーリエも見た。
同じ男を見ていたが、二人の目に浮かんでいるものは、もう同じではなかった。
「明日まで、お時間をいただきます」
先に答えたのはベアトリクスだった。
「私も、そういたします」
セシーリエが続いた。
裁定官は頷き、審理を終えた。
扉が開くと、外の光が一度に入ってきた。
ベアトリクスとセシーリエは別々に立ち、それぞれの代言人と外へ向かった。肩を並べることも、言葉を交わすこともなかった。
オスカーだけが、二人の間に残った。
窓から届く初夏の風が、揃えて置かれた彼の手袋を、片方だけ床へ落とした。




