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第5話

 アエミリアは、二行の下へ目を移した。


 便箋の字は、初めのうちはまだ整っていた。


 コーデリアが幼い頃、父ゲオルクの浪費は、家を傾けるほどではなかったらしい。客を呼べば必要以上の酒を開け、季節が変わればまだ着られる服を捨てた。珍しい馬や外国の時計を買い、請求が届く頃には興味を失っていた。


 やがて、その金遣いに賭博が混じった。


 負けるたび、ゲオルクは次で取り戻すと言った。次にも負ければ、今度こそやめると言った。


 そのたび、帳尻を合わせたのがコーデリアだった。


 ――父が穴を開け、わたくしが塞ぎました。父が家の体面を語り、わたくしが支払いました。そうして家が残るたび、父は自分が家を守ったのだと思ったのでしょう。


 ヴァンフリートが鼻で笑った。


「床を拭く人間がいると、泥靴で歩く奴は自分が清潔だと思い始める。立派な親子教育だな」


 コーデリアは、自分の宝飾を何度も手放していた。支出を削り、期限を延ばしてもらうため債権者へ頭を下げ、領地から上がる金を先回りして割り振った。


 母エレオノーレが亡くなった後は、跡取り娘として家の数字を見る立場にもなった。


 だから、父がフェリクスの資金へ手をつけたいと言い出した時も、いつもの不足だと思った。


 使用人への給金が遅れ、領地の手入れも止まりかけている。今だけ借りれば家を守れる。次の収入が入れば必ず戻す。


 ゲオルクは、そう説明した。


 コーデリアは母から、この金が何のために残されたか聞いていた。それでも使用を認めた。


 ――父はわたくしを欺きました。しかし、母との約束を破ることを認めたのは、わたくしです。


 そこまで読むと、ヴァンフリートが手を出した。


「貸せ」


「まだ途中です」


「死んだ女に最後まで喋らせると、こいつの選んだ順番で腹を立てることになる。一頁分くらいは自分の頭を使え」


 ヴァンフリートは残りの便箋を伏せた。


 最初の頁には、父の借金を清算した貸金屋の名と、資金を動かした日が書かれていた。一通目に同封された出金の写しにも、同じ日付がある。


 二人はまず、その貸金屋を訪ねた。


 店は賭場の並ぶ通りから一本外れたところにあった。窓には厚い格子がはまり、戸を開けると、火の気より先に古い革と蝋の匂いがした。


 主人はコーデリアの名を聞くと、露骨に顔を曇らせた。


「昔の取引です。すでに終わっています」


「終わったかどうかは聞いてない」


 ヴァンフリートはコーデリアの送った精算書の写しを置いた。


「この印はお前の店のものか」


 主人はしばらく眺めた後、認めた。


「誰の借金だった」


「リッテンドルフ家です」


「家は賭場へ行かない。馬車も屋敷も札を引かん。誰が負けた」


 主人は黙った。


「答えたくないなら帰る。代わりに、この印が偽物かどうか法院へ確かめてもらう。偽物なら被害者はお前だし、本物なら帳面がある。どっちにしても、明日は今日より客が減るな」


「ゲオルク子爵です」


 声が低くなった。


「賭場の掛け勘定を、当方が引き受けました」


「清算したのは?」


「コーデリア様です」


 主人は奥から古い帳面を出した。精算された日は、フェリクスの資金が動いた翌日だった。受け取った額も一致している。


 家の急場へ使われた形跡はなかった。


 アエミリアは帳面を閉じた主人に尋ねた。


「コーデリア様は、これが賭博の負債だと知っていたのですか」


「ここへ来た時には」


「支払いを拒みましたか」


「いいえ。ただ、随分長く帳面を見ておられました」


 外へ出ると、冬の日は低い屋根の向こうへ傾いていた。賭場の通りには、昼から灯りがともり始めている。


「父親は、家のためだと嘘をついたのですね」


 アエミリアが言った。


「嘘の中身に家を使った。貴族の常備薬だな。家名を飲ませれば、大抵の盗みは苦くなくなる」


「コーデリア様は、知った後も父親を告発しませんでした」


「次の頁に理由が書いてあるんだろ。理由があれば事実が変わると期待するなよ」

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