第2話
古い書類には、それを書いた人間より長く生きるものがある。
一通目の底に入っていた灰色の保管票も、そうした紙の一枚だった。
表には法院文書庫の印があり、裏にはコーデリアの署名と、短い開示状が添えられていた。自分が死亡した後、フェリクスの資金に関して自ら預けた文書を、ヴァンフリート・フォン・ローエンハイムへ見せるように、とある。
文書庫の保管人は、開示状を読んでもすぐには席を立たなかった。
「亡くなった方からのご依頼ですか」
「違う。死人を依頼人にするほど困ってない」
ヴァンフリートは机の上の保管票を指で弾いた。
「預けた女が、生きてる間に出した指示だ。死ぬと署名まで無効になる規則なら教えろ。王都中の遺言を焚きつけにしてやる」
「閲覧できるのは、コーデリア様ご本人が預けた範囲だけです」
「充分だ。見せてない紙まで見えたら、俺は代言人を辞めて占い師になる」
保管人は開示状の署名を、預け入れの記録に残るものと照らした。日付はコーデリアの死亡より前であり、立会人の印もある。そこでようやく、古びた綴りが一冊、奥の書架から運ばれてきた。
エレオノーレ・フォン・リッテンドルフが、フェリクスのために財産を分けた時の正式な控えだった。
窓から差す冬の光の中で、紙の縁だけが枯葉のように黄ばんで見えた。
アエミリアは、コーデリアの送った写しを横へ置いた。文言も、日付も、末尾の印も一致している。
「写しは正確です」
「一枚目は本物か。死人が最初の関門を越えたな」
「これで、手紙の内容まで本当だと決まったわけではありません」
「そうだ。紙一枚当てたくらいで信用してやるな。詐欺師だって名前くらいは正しく書く」
書面には、フェリクスの教育と、成人後に家を離れて暮らすための財産を、家の通常の金と混ぜずに置くとあった。
「爵位や家督については、何もありません」
「金を残す話へ爵位まで付けたら、文書庫じゃなくて芝居小屋に置かれる」
「フェリクスを跡取りにするためではなく、家を継がなくても生きられるようにしたお金ですね」
「少なくとも、書いた女はそう言ってる」
署名欄の下には、二人の立会人がいた。一人はすでに亡くなった代書人。もう一人は、ヘレーネ・バウアーという女だった。肩書には、エレオノーレ付き侍女とある。
アエミリアはその名を書き留めた。
「この方なら、エレオノーレ様がなぜ資金を設けたか知っているかもしれません」
「ようやく紙から口が生えたな。まだ生きていればだが」




