第4話
屋敷を出る頃には、日が西へ傾いていた。
門を抜けたところで、アエミリアがユリアーネへ尋ねた。
「アードリアン様は、この十一か月のことを何もご存じなかったのですか」
「すべてではありません。ですが、お手紙には何度か書きました」
「お返事は?」
ユリアーネは鞄の中へ手を入れ、一通の手紙を取り出した。
「これが関係するとは思わなかったものですから」
アエミリアが開くと、日々の便りの間に短い一節があった。
「母上の留守中も、君が家を見てくれて助かった」
ヴァンフリートは横から読み、鼻で笑った。
「ずいぶん具体的な無関係だな」
「アードリアン様は、わたくしを利用するつもりでおっしゃったのではありません」
「感謝したのが嘘だとは言ってない。嘘じゃないから役に立つ」
ユリアーネは手紙を受け取った。
「では、あの方は悪くないのですね」
「また早い。お前は他人を悪人か善人の箱へ急いで詰めすぎる。婚約者に向いてる。相手を見る前に名前を貼ってくれる」
春の夕風が、屋敷の塀に沿って吹いた。まだ葉の少ない枝が揺れ、その影が三人の足元をかすめていった。
ヴァンフリートは歩きながら言った。
「十一か月、家を動かした。家令が仕事を渡した。使用人もお前に報告した。契約を変えた。そこは確認不足だ。で、帰ってきた女主人は、その契約を知った後も燃料を使って金を払った」
ユリアーネは手紙を胸元にしまった。
「ですが、わたくしは花嫁になるつもりでしたから」
「愛してたから働いた。それは好きにしろ」
ヴァンフリートは振り返らなかった。
「働いた事実まで消すな」




