第52話
申立ての審理は、院内へ移された。
正門の外にいた者たちは、一度に中へは入れなかった。
門衛が通す人数を確かめる間にも、王が何を認めたのかという話が通りを渡り、向かいの店では、帰り支度を始めていた者まで戸口へ戻ってきた。
ヴァンフリートの机は、石段の下に置かれたままだった。
アエミリアは書類とインク壺を運び入れ、空になった天板を一度振り返った。脚の下へ挟んだ木片が、朝と同じところにあった。
院内では、窓の高い部屋が開けられた。
王宮から届いた記録と写しが照らされ、外で話した者の陳述も、本人の署名とともに綴じられた。
官房の側は、提出された写しの真正を争わなかった。
国王が認めた事柄と、その判断を説明した言葉は、それぞれ確かめて記された。
審理を担当する裁定官たちは、最初の保護が果たした役割を認めた。
同じ理由で現在も制限を続けることには、同意しなかった。
窓の光が長机の端から離れ、燭台が運ばれてきた頃、判断が告げられた。
塔側の扉をエスネエーレが開けた事実は、残す。
その行為に殺意があったこと、暗殺の相談に加わったこと、資金を出したこと、ラディスラフを王にするために行ったことは、いずれも認める根拠がない。これらを事実として扱った記載は訂正し、今後の処遇の根拠としてはならない。
アエミリアは、書き留めた一行を見直した。
開けた、という言葉は消されなかった。
その後ろへ長く続いていたものが、切り離された。
「王宮の許可なく居所を移してはならないという制限を停止する。外出、面会、書簡のやり取りについても、十年前の疑惑を理由とする許可は要しない」
エスネエーレは、机の向こうを見ていた。
「本人名義の財産の使用、婚姻その他の生活上の判断について、同じ疑惑を理由に王宮が制限してきた扱いも停止する」
そこで裁定官は、王宮側の出席者へ顔を向けた。
「関係する部署とクレーフェ家へ、本日付で通知する」
官房の役人が頭を下げた。
エスネエーレは、まだ身じろぎをしなかった。
アエミリアが彼女の方を向くと、目が合った。彼女は何かを尋ねるように唇を開き、やがて、言葉を選んで言った。
「帰る時刻の方も、でございますね」
「はい」
アエミリアは答えた。
「もう、あの時刻に合わせる必要はありません」
エスネエーレは、ゆっくり息をついた。
ラディスラフは、その隣で黙っていた。彼女が目を向けても、自分の方へ来るようには手を出さなかった。
ヴァンフリートが、訂正の内容を書いた紙を確かめた。
シグルーンも端から読み、途中で一度、書記官へ字句を尋ねた。共謀の記載を外すことが、王宮の特別な恩恵を受けるような書き方になっていないかを確かめてから、紙を戻した。
「これでよろしいと思います」
「俺の機嫌を取るために言ってるなら、もう少し早く言え」
「書かれた内容について申し上げました」
「知ってる」
アエミリアは、二人の間から紙を受け取った。
まだ乾ききらないインクへ触れぬよう、両端を持った。
正門を出ると、朝の水たまりは、石の継ぎ目に細く残っているだけだった。
通りの片側には、まだ日があった。店の窓から出る明かりと、低くなった日の光が、歩いていく人の外套へ交互に触れていた。
家令が、エスネエーレへ馬車の場所を知らせた。
彼女は頷いてから、アエミリアの持つ紙へ目を向けた。
「少し、持たせていただけますか」
「どうぞ」
受け取る手は、慎重だった。
エスネエーレは自分の名を読み、その下へ目を移した。風にめくれかけた端を押さえたが、すぐには畳まなかった。
「鍵を開けたことは、残っておりますね」
「はい」
「それで、よいのです」
彼女は紙を畳んだ。
家令が待っていた。ラディスラフも、少し離れたところで従者から帽子と小さな包みを受け取ると、こちらへ目を向けた。
「お帰りになりますか」
家令が尋ねた。
エスネエーレは、門の外へ続く歩道を見た。通りの向こう側には、まだ日が残っていた。店を出た女が籠を抱え直し、呼び止められると、振り向いて何か答えていた。
「少し、歩いてからにいたします」
家令は頷き、御者へ伝えに行った。
ラディスラフが近づいてきた。
エスネエーレは、畳んだ紙を両手で持ち直した。彼はその手元を見てから、彼女の顔へ目を戻した。
「屋敷まで、送ってもいいか」
彼女は、すぐには答えなかった。
馬車の傍らでは、家令が御者へ行き先を伝えていた。ラディスラフは、そちらを見ずに待った。
「歩くのは、あまり速くございません」
「急いでいない」
エスネエーレは、小さく頷いた。
石段を下りる時、ラディスラフの手が少し動いた。けれど、彼女が裾を持ち上げて自分で足を下ろすと、その手を戻し、隣へ並んだ。
馬車が二人を追い越していった。




