第43話
机を運ぶ朝には、雨が上がっていた。
ヴァンフリートがいつも仕事をしている通りの角では、庇から落ちる雫が、石の一箇所を黒く濡らしていた。アエミリアが引き出しを抜くと、ヨストが机の片側を持ち上げた。
「重くなったな」
「十年前から同じだ」
ヴァンフリートが反対側へ回った。
「お前の方が古くなったんだろ」
「なら、若い方が多く持て」
二人が荷車へ載せる間、アエミリアは脚が車輪に当たらぬよう、横から支えた。
机の下にあった石は、そこだけ乾いていた。
近くの店の男が、戸板を外す手を休めて行き先を尋ねた。ヴァンフリートが法院だと答えると、男は、とうとう中に部屋を借りるのかと言った。
「家賃を払って人に嫌われるほど、景気はよくない」
荷車が動き出した。
法院の正門へ近づくにつれ、通りの人が増えてきた。書類を濡らさぬよう外套の内へ抱えた者が、荷車を追い越して石段へ上がっていった。
ヨストは、出入りを妨げないところで車を止めた。
正門の扉は、まだ片側だけが開いていた。その奥には暗い玄関があり、外の明るさに慣れた目では、通っていく人の背中もしばらく見えなかった。
「ここか」
ヨストが尋ねた。
ヴァンフリートは、机を押さえていた縄を解いた。
「中へ入れないなら、入口でやる」
二人が机を下ろすと、アエミリアは引き出しを戻した。少し傾いていたので、脚の下へ薄い木片を差し込んだ。
机は、それで落ち着いた。
正門へ向かっていた書記が一人、足を止めた。アエミリアはその視線の下で鞄を開き、エスネエーレの申立てを卓上へ置いた。




