第42話
エスネエーレは、三人が来た時、卓の上で紙を並べていた。
母親について記された写しが、本の横に置かれていた。
その近くに、自分で書いた問いのある紙もあった。
アエミリアへ挨拶をしてから、彼女は銀の筆に蓋をし、書いた方だけを手元へ引いた。
「何か、分かりましたのですか」
「途中で止められた」
ヴァンフリートは答えた。
彼は、王宮から渡された返書を出した。
エスネエーレが読み終えるのを待ってから、閲覧だけでなく、申立てに添える回答も出なくなったことを話した。
「お前の処遇が決まった頃に、誰が何を引き継いだかを聞いた。今の王が、どう立てられたかというところまで来たら、扉が閉まっちまった」
エスネエーレは、用紙の末尾を見た。
「いつまでかは、書かれておりませんね」
「ああ」
「待つ間は、こちらで暮らすことになるのでしょうか」
庭では、下男が冬の間に折れた枝を集めていた。
濡れた枝は一つに抱えにくいらしく、何本かを地面へ戻し、縄を取りに行った。
ヴァンフリートは、返書を取り上げなかった。
「その相談に来た」
エスネエーレが顔を上げた。
「人前で、お前の話を聞く。手紙の一節を渡した女や、王妃の言葉を聞いた者にも、同じ日に来てもらいたい」
「法院で、ございますか」
「それはまだ言えない。当日のお楽しみだ。その場所で、俺が問いを出して、来た者に知っていることを話してもらう」
彼女は、しばらく考えていた。
「皆様、おいでくださるでしょうか」
「まだ分からん。断ることもできる」
「わたくしも?」
「ああ」
エスネエーレは、自分で書いた紙へ目を落とした。
そこに何が書かれているか、アエミリアからは読めなかった。彼女は紙の角を押さえていたが、折ったり、隠したりはしなかった。
「わたくしのお手紙は、どこまでお読みになるのですか」
「使者が知っていた一節と、その前後を確かめるために要るところだ」
ヴァンフリートは答えた。
「それ以外まで、聞かせる用はない」
「こちらのことも」
エスネエーレは、母親について記された写しを見た。
「出さない。お前の出生を聞くために、人を集めるんじゃない」
彼女は頷いた。
それから、王宮の返書をもう一度手に取った。待つようにとは書かれていても、エスネエーレが待つ間に何をするのかは、どこにもなかった。
「わたくしも、参りたいと思います」
声は、いつもよりはっきりしていた。
「わたくしの話を聞く方が、どのようなお顔をなさるのか、今度は、わたくしも見ていたいのです」
ヴァンフリートは彼女を見た。
「顔が見えれば、親切になるとは限らんぞ」
「はい」
エスネエーレは答えた。
「それでも、そこにいたいのです」
ヨストが、外出のための申し入れは家とも相談すると告げた。
彼女は、その話にも耳を傾けた。行き先と用事をどのように伝えるかを尋ね、誰が付き添うのかも確かめた。アエミリアが答えると、自分の紙に、短く書き添えた。
ヴァンフリートが立ち上がった時、エスネエーレは返書を差し戻した。
「分かったことが、なくなったのではありませんね」
「ああ」
彼は受け取った。
「向こうが見せなくなったことと、俺たちが何も見なかったことは、違う」
ヨストは、その晩、来てもらいたい者へ宛てる手紙を書いた。
宛名の下には、それぞれに確かめたいことを記した。
錠前職人には、修繕の日を変更したことと、錠を外していた間の扱いを。元の侍従には、王妃の言葉を誰へ伝えたかを尋ねたいと書いた。
皆に同じ長い説明を送ることはしなかった。
アエミリアは、一通ずつ読み返した。来るかどうかも、何を話すかも本人が決められると書かれていることを確かめ、日と場所を添えた。
ラディスラフへ宛てたものを封じる時、ヨストの手が止まった。
「前に出した問いの返事は、まだ来ていない」
「なら、その問いを持って来いと書け」
ヴァンフリートは言った。
「答えを持って来いとは、書かなくていい」
ヨストは彼を見てから、筆を取り直した。
翌日から、返事が届き始めた。
話したこと以上には答えられないという者もいた。
人前で話すことをためらい、もう一度、何を聞かれるのか確かめたいという者もいた。
ヨストは、頼んだ範囲を広げなかった。
約束の時刻に来られない者へは、来なかったことを不利に扱うつもりはないと伝えた。
アエミリアは、まだ確かめられていない箇所の印を、紙から消さなかった。
シグルーンが訪ねてきたのは、夕方だった。
外で降り始めた雨が肩へ残っていた。アエミリアが外套を預かると、彼女は礼を言い、机に広げられた書類を見た。
「ローエンハイム卿。人前でお話になる件だと伺いました」
「俺の話を聞いて、おかしなところがあったら言え」
「今ですか」
「当日もだ」
シグルーンは、差し出された紙を受け取った。
ヴァンフリートは、誰に何を確かめるつもりかを話した。シグルーンは途中で何度か紙を戻し、証言した者の名と、記録の出所を尋ねた。
コンスタンティンの教育に関する箇所で、彼女の指が止まった。
「これだけでは、今の陛下が暗殺を御存じだったことにはなりません」
「俺が、そう書いたか」
「書かなくても、そう聞こえるように話すことはできます。あなたは、お上手でしょう」
アエミリアは、紙を揃える手を止めた。
ヴァンフリートは、シグルーンを少し見ていた。
「そこを、当日も言え」
「あなたに都合の悪い時にも?」
「悪い時に言え。いい時なら俺が言う」
シグルーンは、机の上へ紙を戻した。
「では、この教育が何のためだったかという推測と、陛下御自身が何を聞かされていたかは、分けてください」
「分ける」
「ほかの方についてもです。王妃の御親族だったからといって、全員が同じ相談を知っていたことにはできません」
ヨストが頷いた。
「話がそこへ広がれば、私からも止める」
シグルーンは、改めてヴァンフリートを見た。
「それでよろしいのですか」
「よくなけりゃ、お前を呼ばない。拍手だけ欲しければ、金で雇える」
「お金はあるのですか」
アエミリアが尋ねた。
「ない。だから、うるさい方に来てもらうことにした」
シグルーンは笑わなかったが、紙を返す手つきは、来た時より静かだった。




