第35話
王宮側へ照会すると、母親の勤めに関する控えと、養育費の記録が確かめられた。
クレーフェ家に残ったものと、食い違いはなかった。
身分の低い侍女が子を産み、間もなく亡くなった。
先々代王がその子の先を案じ、親友である公爵へ託した。エスネエーレがクレーフェ家の養女になったことは、正式な記録に残っていた。
父親を示すものは、出てこなかった。
ヨストは、父の名を記すべき箇所まで確かめたが、空いているか、不明とされているかの違いがあるだけだった。
「空白は、王の名前を入れろという指示じゃない」
ヴァンフリートは言った。
アエミリアは、書きかけた紙から顔を上げた。
「わたしは、まだ何も」
「顔に書いてある」
「先生も、同じことをお考えだったのではありませんか」
「だから、先に言った」
ヨストは、二人の間へ書面を戻した。
「考えることと、確かめたことは分けておこう」
そう言ってから、別の封書を開いた。
クレーフェ家に残っていた、ジークムントからの照会だった。
十年前、王太子は、塔へ続く支払いについて説明を求めていた。費用の受取先だけではなく、なぜ本人が長く同じ場所で暮らすことになっているのかも、尋ねている。
養子縁組の書面と、本人名義の財産について、確認できるものを示すようにとあった。
「殿下も、ここへ戻ってきたんですね」
アエミリアが言った。
「殺される前に」
「ああ」
ヨストは、家の返答の控えを並べた。
クレーフェ家は、従来の王宮の取り決めに従っていると答えていた。
その返事に対し、もう一度、問いが来ていた。
従来の取り決めであることではなく、現在も続ける理由を説明するように。
アエミリアは、読み終えてから初めの書面へ戻った。
「塔を出して差し上げるおつもりだったのでしょうか」
「そこまでは、まだ分からない」
ヨストは答えた。
「何のために続けているのか、説明を求め始めたところだ。どう扱うと決めたものはない」
ヴァンフリートは、最後の照会の日付を見た。
家の返答が整う前に、王太子は殺されていた。
同じ包みには、もっと古い王妃宮からの書状もあった。
ラディスラフが塔へ通うようになって、何年か経った頃のものだった。二人の親しさを、将来の縁組へ結びつけぬようにと、クレーフェ家へ求めている。
家柄だけを理由とした申し入れではなかった。
エスネエーレの出生には、王家との縁組に関わる疑義がある。養女として姓を得たことで、その事情がなくなったと考えてはならない。
本人たちには、詳しく伝えぬように。
アエミリアは、そこで読むのをやめた。
「会わせない理由は、本人たちに言わないのですか」
「言ったら、何の疑いか聞かれるからな」
ヴァンフリートは紙を取った。
「子供に分からない話をしてるつもりで、子供に聞かれたら答えられない話をしてる」
ヨストは、王妃宮の書状を私信の方へ寄せた。
先々代王の手紙には、子供が頼る者のない身にならぬようにとあった。その子に与えられた家名が、こちらの紙では、何も変えないものとして扱われていた。
「アーデルハイトも、出生を疑っていた」
ヨストは言った。
「少なくとも、王家との婚姻に差し障る可能性を考えていた。そのことは、この書状から分かる」
ヴァンフリートは頷いた。
「ジークムントは、その娘を塔へ置き続ける理由を聞き始めた」
アエミリアは、二通の間へ視線を落とした。
理由を尋ねる者が、王宮の内側にもいた。
その者が死ぬと、塔で暮らしていた女は、今度は暗殺を助けた者として、そこから出られなくなった。




