第25話
聞き取ったものをヨストが読み返すと、元の侍従は一箇所で言葉を挟んだ。
「そこは、陛下がそうお考えだったということです。私が、クレーフェ嬢の企みを知っていたのではありません」
「そのように直す」
ヨストは書き添えた。
「もう一度、ここから読みます」
アエミリアは男の顔を見た。
彼は目を閉じずに聞いていた。
窓から来る光が少し傾き、頬の片側にだけ当たっている。
先ほどまで明るかった銀の杯は、椅子の影へ入っていた。
読み返しが終わると、男は自分でも紙を確かめた。
「当時、私は、殿下のお立場を守るためのお言葉だと思いました」
誰へともなく言った。
「お若い殿下でした。お心が動いて、御自分まで疑われるようなことがあってはならないと」
「誰から守るつもりだった」
ヴァンフリートが尋ねた。
「それは、世間の疑いから」
「その疑いを、この書状で作ってる」
彼は、クレーフェ家へ届いた写しを指した。
「女が王子のために殺したと書く。王子が否定しようとすれば、女を庇うのかと言う。黙ってれば、母親の言うとおりの後継になれる」
男は紙から目を離さなかった。
「私には、そこまでのことは分かりません」
「お前が知ってたことにする気はない」
ヴァンフリートは言った。
「今、何を伝える役をしていたかが分かった」
男は、差し出された筆を受け取った。
署名をする時、初めの一画が少し太くなった。
彼はそれを直そうとはせず、最後まで名を書いた。
アエミリアが紙を受け取ると、男はようやく彼女を見た。
「クレーフェ嬢は、この話を御存じなのですか」
「今は、王妃陛下が刑事送致を求められたことまでです」
「そうですか」
それきりだった。
帰り支度をしている間、男は立って待っていた。
外套を着るヴァンフリートへ、何か言いかけたが、ヨストが挨拶すると、そちらへ向き直った。
戸口を出た時、アエミリアは振り返った。
男は、まだ扉の内側にいた。外の冷気が足元へ入っても、すぐには閉めなかった。




