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第24話

 元の侍従は、王宮から遠くない家に住んでいた。


 窓辺に置かれた鉢には、細い枝だけが残っている。部屋の中は暖かかったが、硝子に近い葉のない先端には、外の冬がまだ触れているようだった。


 男は三人を迎えると、椅子を一つずつ示した。


 自分は、壁際の肘掛け椅子に座った。脇の小卓に銀の杯があり、紋章の下へ贈られた年が刻まれていた。


「王太后陛下に、長くお仕えしておりました」


 男は言った。


「ですから、存じ上げないことを、知っているように申すわけには参りません」


「仕えてなくても、そうしろ」


 ヴァンフリートが答えた。


 男は、わずかに眉を動かした。


 ヨストが、持ってきた写しを広げた。クレーフェ家へ届いた書状と、後継について元老院議員へ出された書状だった。


「こちらをお確かめいただきたい。取り次がれたものに、間違いはありませんか」


 男は順に読み、二通目で頷いた。


「これは、私が手配したものです。同じ趣旨のお言葉を、ほかの方にもお伝えしました」


「その日のうちにか」


「ええ」


 彼は紙を置き、銀の杯へ目をやった。


「あの朝は、何もかもが急でした。喪の支度さえ揃っておりませんでした。人が出たり入ったりして、どの用を先に取り次ぐべきか分からないほどで」


「その中で、アーデルハイトは何を先にした」


「ラディスラフ殿下に、後継として立っていただくための御相談です」


「エスネエーレのことは」


 男は、もう一通の紙へ手を置いた。


「お名前が出ました。塔の扉を開いた女として」


 アエミリアは、膝の上の手帳を開いた。


「その時には、もう共謀したとお考えだったのですか」


「陛下は、お手紙のことを御存じでした」


「それは、質問の答えになってない」


 ヴァンフリートが言った。


 男は彼を見たが、言い返さず、写しの文字へ目を落とした。


「陛下は、クレーフェ嬢がラディスラフ殿下を思うあまり、行ったことではないかとおっしゃいました」


「ラディスラフの命令だとは?」


「そのようなお言葉ではありません」


「なぜだ」


「殿下がお命じになったと示すものは、なかったからです」


 ヴァンフリートは、卓上の紙を自分の方へ寄せた。


「女が殺人を頼んだと示すものは、あったのか」


 男は黙った。


「息子の命令には証拠が要る。女の企みは、恋文があれば足りる。ずいぶん気の利く証拠だな。読む相手に合わせて働いてくれる」


「御子息を亡くされた直後です」


「それで、別の人間の死に方まで決めていいのか」


 男の手が、銀の杯へ伸びた。


 取らずに、小卓の縁へ置いた。


 ヨストが口を開いた。


「陛下がお悲しみだったかどうかを、否定しに来たのではありません。御命じになったことを確かめたい」


 男は、しばらくして頷いた。


「刑事法院へ送り、厳しい処罰を求める。その御意向は、はっきりしておりました」


「極刑を含めてか」


「はい」


 窓の外から、雪を掃く音が聞こえた。箒が石を擦るたび、男の返事の後に残った静けさへ、細い筋が入るようだった。


「ラディスラフには、それをどう話した」


 ヴァンフリートが尋ねた。


「殿下が関わっておられないのであれば、私情をもってクレーフェ嬢を庇ってはならない、と」


「王子としてか」


 男は、すぐには答えなかった。


 アエミリアは、筆を止めた。


「……後継として、お立ちになる上でのことです」


「その話は、お前が直接聞いたんだな」


「陛下から、殿下へお伝えするようにと命じられました」


「何と伝えろと言われた」


 男は背を椅子から離した。


 さっきまで膝に重ねていた手を、左右の肘掛けへ置いた。客を迎えているというより、上の者の言葉を待つ時の姿勢に見えた。


「王妃陛下は、殿下を後継に立てるために力を尽くす。その代わり、クレーフェ嬢の刑事送致を妨げてはならないと」


 アエミリアの筆が動いた。


「その時だけの話か」


「いいえ」


 男の返事は、前より小さかった。


「御即位の後にも、あの方のために事件を調べ直すことや、御自身のお力で処罰を免れさせることは、なさらぬように」


 アエミリアは顔を上げた。


「即位なさった後にも?」


「そのように承りました」


「刑事法院で死ぬことになっても、か」


 ヴァンフリートが言った。


 男は唇を結んだ。それから、首を縦に動かした。


「その場合も、殿下の御意向で扱いを変えてはならないと」


 ヨストは、書いていた行の末尾で筆を止めた。


 アエミリアの手元には、即位後、と書かれていた。続きを書くために筆を持ち直したが、紙へ下ろすまでに間があった。


「王になってから助けることも、先に禁じたんだな」


 ヴァンフリートは言った。


「王となる者が、身近な女性のために審理へ口を差し挟めば、疑いを招きます」


 男は答えた。


「そういう御懸念でした」


「なら、女を有罪にしてほしいという母親の願いも、差し挟まなきゃよかったのにな」


 男は目を伏せた。


「その御相談には、誰がいた」


 ヨストが尋ねた。


「ローベル卿が。私が陛下から御伝言を承った時には、お二人でおいででした」


 ヴァンフリートは、卓へ出した二通の写しを見た。


「エスネエーレが何を知っていたか、調べ直してから殿下へ伝えろとは言われなかったか」


「そのようには」


「新しいことが分かった場合は、別に考えるとも?」


「私は、聞いておりません」


 アエミリアは、聞いていない、と書いた。


 男の話したことと、自分がそこから考えたことが混じらないよう、行を変えた。


「殿下は、何とお答えになったのですか」


 彼女が尋ねると、男は首を振った。


「私は、お伝えするところまでです。その後のお話の席にはおりませんでした」


 ヴァンフリートが頷いた。


「返事は、ラディスラフに確かめる」


 男は、ようやく椅子へ背を戻した。

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