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第21話

 法院の記録では、男は殺害を認めていた。


 死刑があり得ることを、犯行の前から承知していたかという問いにも、承知していたと答えている。


 アエミリアは、そこへもう一度目を戻した。


 王宮の図と、家族のために払われた金の写しが、ヨストの机に並んでいた。窓の外では雪が降り始め、向かいの屋根の端が、昨日より白くなっていた。


「家族を離して、お金を先に渡してから、行ったのですね」


 彼女が言った。


「そうだ」


 ヨストは答えた。


「自分が帰らないことも考えて、支度をしていた」


「逃げ切れると言われて、信じたわけでは」


「少なくとも、死ぬとは思わなかったという話ではない」


 ヴァンフリートは供述の紙を置いた。


 男は王宮の警備に就いていた。

 古道を抜けて宮内へ入れば、王太子宮までの道を知っていた。

 その晩、塔の地下から侵入し、錠を外された王宮側の扉を通り、ジークムントを殺した。


 捕まった時に取り違えられたのでも、別の誰かの身代わりにされたのでもなかった。


 アエミリアは、妻から借りた書面へ手を伸ばした。


 子供の治療費を受け取ったと書かれた紙は、折り目のところが白く擦れていた。

 妻が何度も取り出して確かめたものだった。

 あの家の卓で、それを広げる手は、金の出所を話す時にも震えなかった。


「奥様は、このお金があったから、治療を続けられたと言いました」


「ああ」


「そのことも、残すんですよね」


「残す」


 ヴァンフリートは答えた。


「王太子を殺したこともな」


 アエミリアは頷いた。


 机の向こうでヨストが眼鏡を外した。拭いて掛け直すまで、三人とも口を利かなかった。


 やがて、彼は修繕の記録へ手を置いた。


「男は、自分を辞めさせた王太子を殺した。それで、残していく家族の暮らしも支えられると思ったのだろう」


「そう思わせた奴がいる」


 ヴァンフリートが言った。


「恨みだけなら、もっと前からあった。だが、借金が消えて、子供の治療費が入り、扉の修繕日が変わったのは、この時だ」


 アエミリアは、互いに別のところから集めてきた紙を見た。


 どこにも、王太子を殺すための支払いとは書かれていなかった。


 貸主には、貸した金が戻った。療養先には、治療の費用が入った。職人は錠を外し、修繕の終わる朝に戻すつもりで持ち帰った。

 その一つ一つを扱った者の多くは、自分の仕事の先を知らなかった。


 しかし、金と人の働いた時刻を重ねると、男が王太子宮へ入った晩に行き着いた。


「この兵士に、全部を頼めるはずはないですね」


 アエミリアは言った。


「宮内の道を知っていても、職人を呼ぶ日は決められません。マルタの異動を通すことも」


「女の手紙を読む理由すらない」


 ヴァンフリートは、机の端に置いた私信の写しへ目をやった。


 ヨストが頷いた。


「少なくとも、エスネエーレがこの男に金を渡したという裏付けはない。支払いを辿ると、彼女のところへは行かず、王宮の修繕費へ戻る」


「扉も、同じだ」


 ヴァンフリートは地図を引き寄せた。


 塔の下に、アエミリアが写した扉があった。その向こうを長い道が通り、王宮の壁へ入るところに、もう一枚の扉があった。


 彼は、その二つの間へ指を置いた。


「ここまで用意する人間が、どうして塔を使った」


 アエミリアは顔を上げた。


「人に見つからずに入るためではないのですか」


「王宮の修繕を動かして、見回りから扉を外せる奴だ。宮内へ入れる手段を用意するのに、どうして、あの女の恋文を盗み見る必要がある」


 ヨストは答えず、地図を見ていた。


 雪が窓へ触れ、すぐに水へ変わった。細い雫が硝子を下り、外にある通りの灯を歪めていった。


「人を殺す役は、この兵士が引き受けていた」


 ヴァンフリートは、処刑された男の記録へ指を移した。


「金も、道も、王宮側で用意できた」


 アエミリアは、エスネエーレが何を言われて鍵を開けたかを思い出した。

 上の部屋へ戻るようにと言われ、彼女は言われたとおりにした。

 通る者の顔を見ることさえ、求められていなかった。


 ヴァンフリートは地図から手を離した。


「じゃあ、なぜエスネエーレまで必要だった?」

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