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第20話

 修繕を請け負った商会は、川に面した通りにあった。


 荷を運び込む入口は開いていたが、客を通す方には厚い幕が下がっていた。中へ入ると、外で聞こえていた車輪の音が鈍くなった。奥の机には火鉢が寄せてあり、主人はその近くで、ヴァンフリートの差し出した紙を読んだ。


「十年前の取引を、今になって何だというんです」


「十年前に払った金が、どこへ行ったか聞いてる」


「書いてあるでしょう」


「書いてあるから来た。別の商会なら、そっちへ行ってる」


 主人は紙を机へ置いた。


 王宮側で見せてもらった支払いの記録には、その秋、まとまった修繕費が商会へ渡ったとあった。

 古道の扉だけの金額ではない。

 王宮の建物を冬に備えて直す仕事が、いくつも一緒になっていた。


 だが、実際に工事をした職人たちへ確かめると、支払われた額とは合わなかった。


 使われなかった材料があり、働いていない日の手間賃が加わっていた。

 最初に見せてもらった錠前職人の控えも、その差を確かめる一枚になった。


「それが全部、うちに残ったと思われては困る」


 主人が言った。


「困るんじゃない。違うなら、違うところを見せろ」


 ヨストは、王宮の記録から写した金額を指した。


「こちらは、あなたの商会へ渡ったことになっています。そこから先の支払いがあるなら、確かめたい」


 主人は二人を見比べた。


「私どもは、頼まれた立替えをしたんです」


「誰に」


「内務の方から」


「内務の壁がお前に頼んだのか。人間の名前を聞いてる」


 主人の手が火鉢へ伸び、途中で戻った。


 やがて、当時の取引を記した帳簿を出した。


 兵士の借財を清算するために両替商へ預けた金は、そこにも載っていた。

 子供の療養費は、別の立替金に含まれていた。

 商会の帳面だけを読めば、どちらも他人に頼まれた支払いだった。


「ローベル卿のところで、いつも用を取り次いでいた者です」


 主人は、ようやく言った。


「工事代の一部を、指定された先へ回すようにと」


「工事とは関係のない先へだな」


「上の方には、いろいろ御事情があるでしょう」


「あるらしいな。下の帳面に、石材として埋めなきゃならん事情が」


「何に使うかまで、私は聞いていません」


「聞かなかったことと、正しい支払いだと思ってたことは、別だぞ」


 主人は答えなかった。


 アエミリアは、指示を取り次いだ者の名を書いた。それは、古道の修繕日を変更した時にも出てきた、ローベルの部下だった。


 ただし、主人は、その男が王太子の殺害を口にしたことはないと言った。


 指定された先の暮らしも、子供が何の病気だったかも知らなかった。

 金を受け取り、言われたところへ回し、商会に残る分を残した。

 その話を聞く間、ヴァンフリートは一度も、男が知らないと言った箇所を勝手に埋めなかった。


 帳簿の必要な部分を写し、主人の説明と分けて記した。


 帰る頃には、荷の入口も閉じられていた。


 幕をくぐったアエミリアの頬へ、川からの風が当たった。向こう岸の窓が、西日の中で一つずつ暗くなっていった。


「ローベル卿は、あの兵士が困っていることを知っていたのですね」


「免職にするために調べたんだ。借金も、子供のこともな」


 ヴァンフリートは外套の襟を直した。


「辞めさせた理由と、買う時の値段を、同じ仕事で調べられたわけだ」


 ヨストは、手に持った書類を包み直した。


「まだ、この支払いを本人が命じたと示せるものは足りない」


「ああ。だが、錠を外す日を動かした奴と、兵士の借金を消す金を回した奴が、同じところへ出入りしてる」


 ヴァンフリートは、商会の閉じた入口を見た。


「偶然だと言うなら、随分と勤勉な偶然だな」

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